第10話

 そして沖宮さんのパフォーマンスが終わった。……採点だ。審査員が向かって右から順に点数を発表する。18点、20点、20点、15点、10点……合計83点


 すごい、83点……! 全体的に点数が渋く20点台すら出ない異常な状態だったが沖宮さんがそんな不穏な状況を打開した。会場の重くどんよりとした空気が少し和らぐのを感じる。


 10点をつけた端にいる人物、恐らくこの審査員の中でも一番立場が上の人間だろう。佇まいから威厳、風格そんなものを感じる。目を凝らしてみてみるとプロデューサーそんな肩書が名札に記されているのが見えた。やはり偉い人だ。


 全体的に厳しかったこの審査、特に厳しかったのがこのプロデューサー。常に0点をつけていた。沖宮さんの点数を並べてみると10点が低く見えるが点が付いただけでも凄いことだった。


 沖宮さんの審査が終了し、そのプロデューサーが口を開いた。


「君……アイドルを志してからまだ日が浅いですね?」

「はい……」


 流石に見破っているのか。肩書は伊達じゃないな。


「今回のオーディション、私はプロと同じ基準であなたたちのパフォーマンスを審査させて頂きました。それもあって採点の基準がかなり厳しいものになったと思います」

「……」

「ですが、今回のパフォーマンス10点と私にしては高得点をつけさせてもらいました。それはプロでも通用する要素があると私が判断したからです」

「……」

「残りの10点は君の未来、恐らくプロとして活動するようになって成長した時のために取っておきます。期待しています」

「ありがとうございます……!」


 まだオーディションは終わっていない。だが沖宮さんも含めて残り五人だったので現時点で1番点を取っている沖宮さんのユニット入りは確実だった。


 沖宮さんが笑顔でこちらに駆け寄る。


「大友君~!」


 勢い余って俺に抱き着く形になった。だが振りほどくことはせずそのまま喜びを分かち合うように抱擁した。


「私、どうだった? うまくできてた?」

「とっても魅力的だったよ。ほんと凄かった!」

「ありがとう。そう言ってもらえると今まで頑張ってきたかいがあったよ。これも大友君のお陰だね……」

「俺なんて何もしてないよ」

「ううん、私にとっては本当に大友君の存在が大きかったから……」

「沖宮さん……」


 俺なんて現状ではあまり役に立てている感じはないが少しでも彼女の支えになっているのなら良かった。


 さて……次は駒家さんの番だ。説明会では俺と沖宮さんを侮っていた彼女。実力をお手並み拝見しようか。沖宮さんのユニット入りが確定しているので俺は安心してみることができた。


 駒家さんは沖宮さんの実力を目の当たりにして余裕の笑みが消えていた。それに微かに手が震えているように見える。それもそうか。自分より下だと軽侮していた人間がもしかしたら自分を上回るかもしれない、その恐怖は計り知れないものがあるだろう。


 それでも大口を叩いていただけのことはあった。駒家さんは歌が得意というわけか。よく通る良い声をしている。それに音程が驚くほど正確無比だった。だが……


 67点。


 こちらに戻ってきた時の駒家さんは驚くほど覇気が無くなっていた。別人かと錯覚するくらいに。俺と沖宮さんにどんな顔をすれば良いのか分からないという風に顔を伏せている。いや、もはやそんなことを考える余裕もないのか。意気消沈して椅子に座りうなだれていた。


 続いて北坂さんの番だ。


 あれだけダンスの天才と称されている彼女だったが……。


 結果は61点


 歌で息切れしてしまい動きがちぐはぐになっていた。歌やら表情コントロールやらが合わさりお得意のダンスに集中できていないようだ。確かにアイドルのダンスと普通のダンスとではほぼ別競技みたいなものだからな……。それでも立て直して61点、やっぱり天才と称されるだけはあった。



 北坂さんの審査が終わって少しの間、休憩ということになった。だが次の番だと思われる女性は壇上に登って予行演習をしているようだ。絶対、勝ちに行く。そんな気迫を感じる。


 ゆるふわウェーブのベージュの髪に手足がスラっと伸びている高身長、モデル体型の女性だった。


 休憩の間に沖宮さんが駒家さんを励ましてくると席を立ってしまった。俺も沖宮さんに続いて席を立った。


「暫定であなたもユニット入りが決まりだね。これからよろしくお願いね?」

「……っ」


 駒家さんは散々バカにしていた沖宮さんに点数で負けたことに対してやはり屈辱を感じていたのだろう。だがそれを悟らせないように強気に沖宮さんを睨んでいる。それでも目に若干の涙を浮かべており悔しいという感情がバレバレで少し可愛かった。

 

「何よその顔は……? バカにしてんの?」


 しまった。俺、なるべく思っていることを悟らせないように無表情を貫いていたのだがどうやらバレバレだったのは俺の方らしい。





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