もしも魔術の世界に史上最強の筋肉を持つ男が転生したとしたら

本編

 魔導国リシティアは未曾有の危機に陥っていた。

 魔法が物を言うこの世界。

 突如として最強の古代魔法を使う『魔王』が建国を果たし、魔物を使役。

 世界を次々と侵略していったのだ。


「ユフィ、本日お前を呼んだのは他ではない。このままでは世界は滅ぶ。魔導国きっての召喚師であるそなたに、国の存亡をかけた召喚を行ってほしい」


「はっ!」


 そして私は国王の命を受け。

 魔導師10人が結集した一大召喚儀式を行った。


「この世界の救世主をもたらし給え!」


 そしてその召喚で呼び出されたのは――


「あ、どうも、田中です」


 メガネに奇妙な礼装スーツを纏った男。

 田中だった。


「えっと、トラックに轢かれたと思ったんですけど、どこですかね。ここ」


 私は田中に事情を話した。

 すると田中は「なるほど」とメガネを光らせた。


「つまり私はトラックに轢かれる直前、この国を救う救世主として召喚されたわけだ」

「トラックが何なのかはよく知りませんが良かったですね、怪我しなくて」

「ええ、トラックを破壊しなくて良かったです」


 彼が何を言っているかはよくわからなかった。

 しかしながら召喚で呼び出されたほどの実力者なのだ。

 きっと彼は凄腕の魔力の持ち主に違いない。


 私たちは早速田中を魔力測定機にかけた。

 この国では魔法と、それに準じた魔導科学が発展しているのである。

 国民は生まれつき魔力を有し、そして皆が皆、この魔力測定を受けることでランク付けされる。


 私はそのなかでも上から二番目。

 SS級の魔力を持つ、国家魔導師なのだ。

 きっと田中は、私を超える魔力を持つだろう。

 そう思ったのだが。


「Z級。最下層です」

「えっ?」

「魔力ゼロです、この人」


 その話は早速国王の耳に入った。

 国王は血管ブチ切れるかと思うほど激高した。


「ええい、血迷ったかユフィ! 国の存亡危機にそのような役立たずを呼び出すとは! 追放じゃ! 追放! 出ていけぇ!」


 そんなわけで私は田中と共に無一文で国外追放された。


「えっと、どうしましょうか」


 真横に佇む田中が尋ねてくる。

 私はもうどうしようもないということを話した。

 私は国家魔導師として終わり。

 国はやがて魔王に滅ぼされる。

 呼び出した田中には悪いが、魔王に殺されるまで適当に生きてもらうしかない。


「じゃあ、魔王とやらを倒せばいいんですかね」

「えっ?」


 田中は早速、魔王軍一の軍勢がいる領土に入っていったかと思うと。

 わずか30分で軍を壊滅させて戻ってきた。


「潰しました」

「えっ?」


 次に私たちは魔王軍四天王の一人『氷のモルティア』が侵略する氷の土地へ向かった。


「我が氷の魔法を前に砕け散るが良い!!」

「ふんぬ!」


 モルティアが放ったデスフリーズを前に、田中はどこぞの部屋から適当にもぎ取ってきた柱を己が筋肉で棍棒のように振り回すと、魔法を一閃した。

 魔法は消えモルティアは逃げた。


「倒しました」

「えぇ……」


 私達が魔王城へと向かっていると、一万人の軍勢と残り四天王の三人に囲まれた。


「今日がお前たちの命日ぐほぉ!」


 四天王たちが名乗りを上げていたが、田中が放った石により敵は無力化した。


「結構弱いですね」

「……」


 秒で将を倒された魔王軍は散り散りになって逃げた。


 魔王城手前。

 私たちは夜の森で焚き火を囲った。

 私たちは、田中がどこぞで捕まえてきた巨大なイノシシの肉を焼いて食べていた。


 そこで私は、どうして田中がそんなに強いのか尋ねてみた。


「昔から筋トレと格闘技が趣味だったんですよね。それでずっとやってたら極めちゃって。今ではベンチプレス500kg3レップも余裕です」


 彼が何を言っているのかはよくわからなかった。


 やがて私たちは史上最強の魔導師である魔王の元へたどり着いた。

 彼はこれまでの四天王とは違う。

 一筋縄ではいかないはずだ。


「我が災厄の魔法を見せてやろう!」


 魔王が放ったのは、三つの国を壊滅した災厄の風魔法だった。

 巨大な竜巻が全てを飲み込み、世界を破壊する。


「ふんっ!」


 しかし田中が思い切り放った蹴りより生まれた巨大な竜巻が、風魔法を相殺した。

 魔王が飛び出そうなほど目を見開く。


「ならばこれはどうじゃ!」


 魔王の放った死神を召喚する即死呪文により一度は心肺停止するものの絶命前に生み出した筋肉の痙攣反応により田中は蘇生した。


「ええい、いい加減死なぬか!」


 魔王が雷鳴と洪水と地割れを同時に生み出す最強魔法を放ったが、田中が筋肉を硬質化させると魔法はいとも簡単に弾かれた。


「まだやります?」

「……降参です。すいません」


 こうして田中の手により世界は救われた。

 世界を救った私たちを王様は英雄のように扱い、私の国外追放は撤回され、私は無事復職を果たした。


「それじゃあ田中、色々ありがとう」

「いえ。これがきっかけでこの世界に少しでもフィットネスが広がることを祈っています」


 田中はそう言って私の帰還魔法を使って帰って行った。

 全てが終わって自宅に帰った私は、少しだけ腕立て伏せをした。

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もしも魔術の世界に史上最強の筋肉を持つ男が転生したとしたら @koma-saka

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