意外と乙女なあの子が僕に恋してるなんて知らなかった

桜枕

短編

 全国高等学校総合体育大会、バスケットボール競技大会。長いっ!

 インターハイの決勝戦が行われている体育館に試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。


 見事に大逆転した女子選手が観客席を見上げながら、ピョンピョン跳ねて手を振っている。

 正しくは観客席にいる僕を見上げながら、だ。


「すげぇなぁぁ」


 そんな月並みな感想をこぼしながら僕も手を振り返した。


「勝ったぞ。これで付き合ってくれるんだよな!」


「そうだね。優勝おめでとう」


「今日からは彼氏彼女としてよろしくな!」


「あぁ、うん。そうだね」


 ボーイッシュな彼女の屈託のない笑顔が眩しい。

 歯切れの悪い返事しかできなくて非常に申し訳ないが、僕の中で彼女は友人だった。

 だからこそ、別の肩書きを持つことに躊躇してしまう。


「私のこと嫌い?」


「嫌いじゃないよ」


 彼女との出会いは中学生の頃だ。

 当時、ふくらはぎが太い、というくだらない理由で男子にからかわれていた彼女を庇ったことで交流が始まった。

 今思うとどうでもいいことだが、多感な時期に身体的特徴をからかわれるのは精神的にくるものがあったのだろう。


 それから彼女は一心不乱にバスケットボールの練習に取り組み、強豪校に推薦入学し、インターハイで優勝しちゃった。

 

「どうして、そんなに目が泳いでいるの?」


「いや、現実を受け入れられなくて」


 大会が始まる前から「絶対に優勝するから観に来い。そして、私と付き合え」と呼び出されて、本当に優勝する瞬間を目の当たりにした僕の気持ちを考えて欲しい。

 しかも、同時に告白とか。


「あんたが『筋肉は裏切らない』って言ったんだよ! 筋肉を信じてここまでやってきた私を信じてみなさいよ!」


 意味は分からないがすごい自信だ。


 あれから二十年。

 今では母となった彼女が息子に「筋肉は裏切らない!」と説いて毎日の練習に送り出している。

 筋肉よりも彼女は偉大なんだ、と思う今日この頃である。

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意外と乙女なあの子が僕に恋してるなんて知らなかった 桜枕 @sakuramakura

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