救済植物販売店〈lullaby〉

影見 ハル

拝啓 存在するかも分からない遠い未来のわたしへ。


 わたしは今、自室の机にて頬杖をつきながらこの手紙を書いています。

 人に誘われて書き始めたのはいいのですが、正直、これといってあなたに伝えたいことなど思いつきません。わたしが自分自身にそれほど関心を持てない性質であることは、他の誰でもないあなたならばよく知っているでしょう。

 仕事というわけでもなければ強制的なものでもないのでこのまま筆を置き、あなたの目に触れることなく屑籠の底へ沈めてしまっても良いとは思うのです。しかしそれでは紙もインクも、誘ってくれた人の善意も無駄にしてしまいます。それにはさすがのわたしも抵抗感を覚えざるをえなかったので、こうして今もあなたにダラダラと語りかけながら、書くことを探している次第です。

 とはいえ思いつかないものはどうやっても思いつかないので、とりあえず見つかるまでの間、わたしの心の整理も兼ねて、あなたにとっては遠い過去の話をしようと思います。

 この手紙を読めばいつだって「あの日々」に戻れるように。彼と共に過ごした時間を忘れることがないように、たとえ忘れかけてもまた思い出せるように。


 暫しの間、お付き合い願います。

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