” あの ”

16時20分。 

下校時、佐和は駅のホームで駿太を見かけた。

(あ…、駿太くんだ…)  

駿太は、佐和に気づかず自分の携帯をじっと見ていた。 

(音楽でも聞いてるのかな…)

佐和は駿太を見つめ続けた。

(湊くんの事、話したいな…。話しかけたら迷惑かな…)

佐和が話しかけるか迷っていると、駿太が携帯を鞄にしまい顔をあげた。

その時、ようやく駿太は佐和に気がついた。

目があったので佐和は駿太に軽く手を振った。

駿太は、佐和の方へ駆け寄った。


「久しぶり」

駿太は笑顔で言った。

「久しぶり」

佐和は駿太が笑顔だったのでホッとした。

「元気だった?」

「うん。元気。あのね…」 

佐和が言いかけてすぐ、誰かか近づいてくる音がした。

「駿太!佐和!」

近づいて来たのは友人の孝司だった。

「何々?どうしたの?」

孝司が強引に首を突っ込んできた。

「…これから話そうと思ってたのに、お前が邪魔してきたの」

駿太が孝司を睨んだ。

「ごめん、ごめん。で?」

「あの…、駿太くん、この前はありがとう」

「この前?」

駿太は首をかしげた。

「前に、湊くんの事で、励げましてくれたから」

「ハハッ、律儀だね。で、あれから湊さんとうまくいったの?」 

「うん…。たぶん…、良い感じ…」

佐和は恥ずかしそうに笑った。

「良かったね」

駿太は心底そう思った。

「え、どんな風にいい感じなの?」

孝司が話に割り込んできた。

駿太は孝司の割り込み方にムッとしたが、確かにそのへんを聞きたかった。


「えっと…」

佐和がチラリと孝司を見た。

孝司は視線を感じ不思議に思った。

「…湊くんがずっと好きな人だと思ってた人との事が解決して…」

「え!解決したの?!」

孝司は驚いた。

湊がずっと片想いしてた絵理は、孝司の姉だ。

佐和もそれを知っていたのだろう。

話し始め、孝司を見たのは孝司に気を使っての事だと、孝司は理解した。


「湊君が、…その人に告白して振られたとか…?」

孝司はおずおずと聞いた。

「ううん。勘違いだったって…」

「…勘違い?」

「うん。付き合いたいって思ってたわけじゃなかったって」

「へぇ。まぁ、勘違いっていうなら、それが一番いい解決なのかもね…」

孝司はそのことについては心配して損をしたと思った。


「でね、それから、2人でご飯に行くようになって…」

「えっ!付き合ってんじゃん」

駿太は、佐和と湊が両思いになるだろうと予想はしてたが、想像以上に仲が良いようで驚いた。

「全然全然!まだ友達で…」

「トモダチ?」

「そう」

「トモダチとしか思ってないのに、9歳下の女の子とご飯行くか?」

「だよね…。期待していいと思う?」

佐和はすがるように駿太を見た。

「イイんじゃない?」

「いいのかなぁ…」

「いいって」

「そうかなぁ?」

「うん」

「そうかなぁ…」

「…そんなに疑問に思うって事は、ダメなんじゃない…」

孝司のつぶやきを聞いて、佐和は孝司を睨んだ。

「怖っ!」

佐和はプイッと顔をそむけた。

「…湊くんに可愛いって言われたし…」

「え!マジで?」

「やばっ!何それ」

孝司は興奮して言った。

「それで付き合ってないの?」

駿太は不思議そうに聞いた。

「うん。付き合えないって」

「えー、それなのに気を持たせるような事して嫌じゃない?」

「…年齢がどうしても引っかかるって」

「あー、湊くん真面目だしね」

「うん…」


「でも、まさかなぁ。佐和が、あの湊くんを落とすとは…」

孝司は信じられないといった口調でつぶやいた。

「落ちてない、落ちてない」

「いやぁ、もう落ちてるよ」

駿太が賛同した。

「落ちてる…の?」 

駿太も孝司も頷いた。

「えー。どうしよう…」

佐和は、嬉しくて顔がニヤけた。


「でもさ…」

孝司が神妙な顔で言った。

「春乃にはいつ言うの…?」

春乃は佐和の親友で、湊の妹だ。

「…うん」

「春乃に気を使わせたくなくて黙ってたんだろうけど…、俺らだけ知ってて、春乃が知らないっていうのは…」

「湊くんとうまくいくか、こてんぱんに振られた時に言おうって思ってたんだけど…」

「…これまで、結構、コテンパンに振られてたよ?」

孝司はそう言うとまた佐和に睨まれた。

「怖っ…」

「春乃…、ずっと黙ってた事、どう思うかな…」

「…わかんない」

佐和と孝司は黙った。


「…そんな脅かすなよ。大丈夫なように、孝司がフォローしてやればいいじゃん」

駿太が言った。


「………」

佐和が急に無言になった。


「佐和?」

「佐和ちゃんどうかした?」

「駿太くん…、いま、孝司って呼んだ…?」


「え?うん…」

駿太はそれを指摘されて急に恥ずかしくなった。

「いつの間にそんなに仲良しに…」

「別にいいだろ…」

駿太が嫌がった。


「私と湊くんより、そっちの方が驚きだわ…」

「んなわけ、ねーだろ」

駿太と孝司の声が揃った。


「やっぱ仲いい」


「うぐぐ…」

駿太は、恥ずかしくて孝司の頭をはたいた。

「痛!何でだよ!」

「うるさい」

そんな2人を見て佐和は笑った。

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