俺といるときは

佐和と湊はカフェから出て、佐和の家に向かっていた。


「送ってくれなくていいよ?」

「いや、行く」

「あははっ。いいの?」

「うん」

湊は心を軽くしてくれた佐和に、何かしてあげたかった。


「湊くんてさ」

「ん?」

「あんな風に、ケンカするんだね」

佐和はさっき見た、湊と絵理の言い合いの事を言っていた。

「…言うな」

「面白いね」

「…面白くない…」

湊は少し拗ねた。

「あんなに言われてひるまない絵理ちゃんもすごいね」

(なんだコイツ…。ガンガン聞いてくるじゃん…)

「…すごいかもね」

湊はもう諦めたように言った。

「それに、笑った顔が可愛かったな」

「…そう?」

「いや、そうでしょ。孝司のお姉さんとは思えないね」

「フフッ。ひど…」

「孝司も可愛い系ではあるけど…。イケメンではないよね」

「あははっ。そうだね」

「人の事、言えないけど」

佐和はサバサバと言った。

「…言いたかないけど、佐和は美人だよ」

「あははっ。すごい気を使われている」

「…佐和、運悪く、春乃の可愛さで隠れちゃってたけど…。たぶん、だいぶ可愛いよ」

「わ…。照れるー…」

佐和は恥ずかしくて、手で顔を触った。

「…わかって無い所が、可愛かったんだけど」

「…ちょっとぉ…。じゃ、言わないでよ」

「あははっ。いや、知っておいた方がいいよ」

「何で?」

「友達同士でさ、佐和ちゃんて可愛いねって話になった時、全然可愛くないよ〜、とかマジのトーンで言われたら、友達引くよ?」

「…えー…。受け入れる方が引かない?」

「受け入れないんだよ。自分の事知ってた上で否定するんだよ」

「え、それも嫌じゃない?」

「それで、いいんだよ」

「そうなんだ…。よくわかってるね…。さすが、女子っぽいの好きなだけあるね」

佐和はからかうように言った

「ん?」

「パフェとかアイスとか、パンケーキとか…」

「あぁ。もう、俺、女子だからね」

「女子なんかい」

「ハハッ」 


湊はふと、前にパブロが言っていた言葉が頭をよぎった。

パブロは佐和の事について、

『気を使っちゃう相手かどうかくらい知っといてもいいんじゃない?』

と言った。

湊は、アンナといる時は気取ってしまって、可愛いカクテルを飲みたくても、パンケーキを食べたくても、何となく我慢してしまっていた部分があった。

佐和には、そういった気遣いをしてしまうのかどうかを、今、ふと考えた。

(俺…)


ボーとした湊を見て、佐和は不安になった。

「湊…くん?」

「ん?ごめん聞いてなかった。何?」

「特に何も言ってはいないんだけど…」

「そっか。ぼーっとしてた…」


湊は、突然立ち止まってキョロキョロしはじめた。

「湊くん、私の家、あっち…」

「あ、あぁ…」

湊は結構な方向音痴だ。

「気を引き締めてないとわからなくなっちゃうから…」

恥ずかしそうに言う湊に、佐和は笑ってしまった。

「おいっ。送らねーぞ」

「はーい」

「…しょうがないじゃん。コレ、治んないだよ…」

「うん」

「…だから、俺といるなら佐和がしっかりしてて」

「え…」

「あ…」

湊は自分が言ってしまった事に焦って、言葉を詰まらせた。

「友達としてってこと」

湊は弁解した。

「うん。湊くんといるなら私がしっかりする…」

佐和はあえて、湊が言った事と同じ事を言った。

「…!」

湊は顔が赤くなった。

「湊くんといるって…、つまり…」

「違う…」

「湊くん」

「…何も言うな」

湊は下を向いて言った。

「…」

「湊くん。好き…」

「さっき、友達だって言った…」

「うん…」

「忘れろ…」

「うん…」

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