俺にすれば?
駿太は佐和が好きだ。
元カノの春乃の友人という微妙な関係ではあるが、話せば楽しいし、佐和の笑った顔を見ると胸がドキドキした。
「葉山さん」
駿太はいつも通り、駅のホームで声をかけた。
「あれー。駿太くん、髪、切った?」
「え、うん」
「いいね。似合う」
「ありがとう…」
駿太は照れくさそうに自分の髪を触った。
(…葉山さんて、天然だよな…。これはこれで、厄介だな…)
「春乃って、今でもモテてる?」
照れている駿太には気が付きもせず、佐和は話しかけた。
「すごいモテてるよ」
「そうなんだ。孝司、心配だろうね」
「うん。でも、小林と谷川って電車でイチャついてるから、小林に彼氏がいるって噂にはなってる」
「あはは。あの2人、5歳から一緒だから、きっとあれで、自然体なんだろうね」
「ふ~ん」
「もっと、周りに気を遣ってほしいよね」
「そうだねー。俺、幼馴染みなんていないけど、あんなに仲いいもんなのかな」
「あー、春乃がね、孝司にベタ惚れだからね」
「贅沢だな」
「あれ、引きずってる?」
佐和がからかうように言った。
「引きずってないって…」
(葉山さんが言うなよ…)
「孝司と春乃って幼稚園からの幼なじみでね、春乃はその頃から、ずっと孝司が好きだったの」
「ずっとって、幼稚園のときから…?」
「そう。あんだけモテるのにね。でも、孝司は何にも気がついてなくて」
「へぇ。谷川、鈍いんだ」
「んー、春乃の事に対してはそうかもね」
「ふ~ん」
「だから、孝司が他に彼女作っちゃったりしてね。春乃めちゃくちゃへこんでた」
「それでも、谷川の事、好きだったんだ」
「うん。一途だったね。だから、両思いになった時は嬉しかったな」
「…谷川の何がいいの?」
「…引きずってる?」
「もう、うるさい…」
駿太は佐和を軽く睨んだ。
「あはは、ごめん」
「葉山さんが言わないでよ」
「ごめん」
「葉山さんに、勘違いされたくない…」
「ごめんって。そんな怒ったの?」
(意味わかってないな…)
「正直、呆れてるよ…」
「え?そんなに?」
駿太は佐和の顔を見た。
「…そこがいいのか…」
「何が?」
駿太はため息をついた。
「とにかく、春乃も孝司も毎日楽しそうでいいよね」
「そうだね」
「羨ましいなぁ」
(今、彼氏はいないんだ…よな?)
「葉山さんは…」
「ん?」
「好きな人いないの?」
「いるよ…」
「…!…そうなの…?」
「…うん…。ずっと片思い」
駿太の顔は引きつっていた。
「…告白は?しないの?」
「うーん…」
「しないの…?」
「うーん、考え中」
「そっか…」
「これ、春乃には言ってないから、内緒ね」
「うん…。ね、」
「ん?」
「見込みあるの?」
「ないに等しい」
「…じゃぁさ…、俺にすれば…?」
「え?」
駿太は佐和の顔を真っ直ぐ見た。
「…何て言ったの?」
駿太の声があまりにも小さかったので、佐和は聞き取れていなかった。
(もう一回は恥ずかしくて言えない…)
「……。告白してダメだったら教えて…」
駿太はうなだれて言った。
「嫌な事言うな…」
「…教えて」
「?わかった…」
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