あいつにだけは…!

電車の駅のホーム…


「葉山さん」

駿太は軽く手を上げて、佐和の方に歩み寄った。

「あ、駿太くん。今日暑いね」

「ね。かき氷食べたい」

「食べたい食べたい」

2人は横に並んだ。

「…ハライチのラジオ聞いたよ」

「えっ!ホント?面白かったでしょ?」

「正直。面白かった」

「ね?」

佐和は嬉しそうに笑った。


2人で話していると、

「佐和〜」

遠くから、春乃が声が聞こえた。

「あ、春乃〜」

佐和は、嬉しそうに手をふる。


佐和は電車を並んでいる列から少し外れて、春乃に近寄った。

「春乃、前に熱でたって聞いたけど、大丈夫だった?」

「38℃まで出た…」

「わー…。大変だったね」

「ね」

駿太は、春乃がいるのか気まずくて、なるべく気配を消していた。

そのせいか、女子2人で話が盛り上がっていた。

駿太が良かったと思った瞬間、

「春乃!」

孝司がやってきた。

(うわ…、やなやつきた…)


「いつもの所にいないから、探しちゃったじゃん…」 

「ごめん。佐和見つけたから」

「佐和。最近、ちらほら会うね」

「最近、電車の時間、前より遅いのになったから」

「そうなんだ」

孝司は視線をずらした。

「駿太も一緒だったんだ」

「うん…。たまたま…」

「…へぇ。駿太は逆に前ほど会ってなかったね…」

「うん。会いたくなかったからね」

「…へぇ…」

孝司の歯切れが悪い事に駿太は気がついた。(まさかとは、思うけど、コイツ気がついたんじゃ…)

孝司は駿太を見てニヤッとした。

(コイツ、殴りたい…)


「じゃ、俺、あっち行くから」

駿太は、その場を去ろうとした。

「え、一緒にいようよ」

孝司は、駿太を引き止めた。

「いいえ。大丈夫です」

駿太は語気を強めで言って、去って行った。

孝司は心の中で笑った。


「今日は一段と嫌われてるね…」

「そうだねぇ」

孝司は何も気にしてないように言った。

「もう、仲良くするのやめたの?」

「ん?いやいや…」

「駿太くん、孝司の事、いいヤツって言ってたけど…」

「うっそだ〜」

春乃は笑った。

「…嫌いじゃないって言ってたけど。好きとは言ってなかったか…」

「微妙だね」


基本、春乃の恋愛レベルは1だ。

佐和と駿太が、仲良く話しているのを見ても、特に何にも思うことはなかった。


(ま、春乃は気が付かないよな…)

「孝司、さっきからニヤニヤしてない?怖いんだけど」 

佐和が冷めた顔で言った。

「いや、駿太と佐和が…」

「え?私、何かしたっけ…?」

(…もしかして、この子、当事者なのにわかってないのかな…?)

「あ。いや…。駿太と仲いいよね」

「そう?」

「え…」

(ポンコツ…)



その頃、駿太は、孝司が自分の気持ちに気がついていると確信していた。

以前、孝司が、ダメダメなのは春乃の時だけと言っていた事や、佐和が、孝司は頭が良い事、普段はしっかりしていると言っていた事

を思い出していた。


(あいつにだけは、知られたくなかった…。嫌だ…。あぁ、頭痛え…。あー、やだ…。頭痛えー…)

駿太は、駅のホームで頭を抱えた。

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