筋トレ系Vtuberとの1日 2

石川せり。僕の1つ上の、大学1年生。趣味、運動全般。高校生の時は、陸上で全国大会に出場しており、学校ではスターだった。さらに、ネット上でも少し有名な配信者だ。登録者は1万人を超えたところ。そして、1週間前から一緒に住んでる、僕の自慢の彼女だ。


「朝ごはんなーに?」

「今日はパンだよ。」

「なにパン?」

「サンドウィッチ。」

「わーい。シャワー、浴びたら行くね。」

「うん。朝食作って待ってるね。」

「はーい。」


 僕はリビングに戻る。朝食の準備のためではない。もう朝食の準備は終わっているから。僕はせりの前で嘘をついた。今日だけではない。せりがこの家に来てからずっとだ。どうして、そんな嘘をついているのか。それは、絶対にせりの配信を見ていることを、せりに知られてはいけないからだ。僕は、僕がせりを「そういう目」で見ているって思われたくないんだ。せりに見合う「カッコいい彼氏」であるために。そんなことを考えながら、コーヒーを口に運ぶ。



「くうぅぅぅ。」

 浴室で情けない声を出し、膝を抱えてうずくまる。たっちゃんの家で生活するようになってから、毎日こんな感じだ。

「……はぁ。今日も失敗かぁ。」

 頭からシャワーを浴びながらため息をつく。

 朝からセンチメンタルになってもしょうがないけど……。

 でも、こうも毎日失敗続きだと落ち込みもする。

「配信、まだ慣れないなぁ。」

 筋トレするのも、運動するのも大好きだ。人と話すのも嫌いじゃない。顔は見れないけど、画面越しに見てくれる人がいるのは分かっている。でも、その人たちが時間を使って満足いく配信が出来ているか、さらにスーパーチャットでお金をもらっていいのかわからない。だって、私が配信している理由は「みんな」のためじゃないんだから。

「……ック。」

 さっきまでの配信を思い出すと、顔が赤くなる。私、あんなに恥ずかしい声出してたんだ。はじめての配信がおわって、コメント欄を見たときは、今より100倍くらい顔が真っ赤だった。

「ううん。弱気になっちゃダメだ。」

 絶対に彼を振り向かせるんだ。そして、たっちゃんに「かわいい」って言わせるんだ。

 

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