7


「真、さん……?」


「………」




ゆっくりと、近づいてくる。






「…真さんなの?」




立ち止まって、俺のことをじっと見つめている。






………俺は、疲れてるのかもしれない。


いや、さっき飲んだ酒のせいで俺はいつの間にか眠ってしまって、夢を見ているんだ。


きっとそうだ。






望みを掛けて頬をつねると、ジワリと鈍い痛みが広がった。




夢、じゃない…








「そんなことしたら、痛いよ? 」






そう言って、頬に触れてきた指先は、温かかった。








不意に、最後に触れた真さんの指の冷たさが、脳裏に過ぎる。




もう二度と、温もりを取り戻すことのない肌が怖くて、痛くて、涙さえ出なかった。








「……っ…」




あの時、流れなかった涙が、何故か今になって止めどなく溢れ出してきて、その温かい指に促されるように、俺は、やっと泣くことが出来た。




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