魔王様は本当に賢いお方~幼女魔王とロリコンメイドのドタバタ諸国漫遊記~
寿甘
まおー様の出発
魔界に乱世が訪れていた。圧倒的なカリスマとリーダーシップで強力な悪魔達をまとめ上げていた魔王マステマ=サタンが、人間世界の勇者と相打ちになって姿を消したため、各地の力ある悪魔が次期魔王の座を狙って各地で独立国家を立ち上げ始めたのだ。
各国の王はそれぞれに魔王を名乗り、多くの悪魔を集めて国家運営の真似事をしてみるが、大サタンとも呼ばれたマステマのようなカリスマの持ち主はいなかった。そのため、どこの国もトラブルが多発し混乱を極めていくのだった。
「困りましたね、このままでは魔界が滅亡の危機です」
ここに、魔界の行く末を憂う一人の悪魔がいた。長い銀髪を後ろでまとめ、フリルの付いたヘッドドレスをつけ、身体には黒のワンピースにやはりフリルの付いた白いエプロンが合わさったエプロンドレスを着ている。一言で表現するならメイド服だ。彼女は魔王マステマ専属のメイド長ティータである。かつての魔界で彼女は常にマステマの傍に控え数多の悪魔達より嫉妬と羨望の眼差しを受けていたが、今ではがらんとした魔王城でひっそりと暮らしている。
ため息をつきながら戸棚を掃除する彼女に駆け寄る、小さな影があった。
「まおー!」
声の主は幼い少女である。人間で言えば三歳児ぐらいの姿で、滑らかなストレートロングの黒髪からは毛皮に覆われた尖り耳が覗く。動物で言えば犬の耳に近い。黄色いパジャマの腰付近からは、やはり犬のような尻尾が伸びており、それをブンブンと振って機嫌の良さを伝えている。
「ああ魔王様、お目覚めでしたか。すぐに朝食を用意しますね!」
「まおまおー!」
ティータが手を止め、朝食の準備に向かうと少女は更に千切れんばかりに尻尾を振り、両手で万歳をしながら笑顔を見せた。たった今ティータが魔王様と呼んだ通り、彼女は力を失い幼い姿に変わってしまった魔王マステマその人だった。
人間の勇者とマステマの戦いは熾烈を極め、双方ともに全力の技をぶつけ合った結果として、魔王は魔力の大半を失い幼児の姿になってしまったのだ。言葉も話せないほど衰弱し、今のマステマは「まおー」としか喋れない。
そんな彼女を甲斐甲斐しく世話するティータなのだが、このメイドには少々変わった趣味があった。
「さあさあ、ご飯の前にお着換えしましょうねーウヒヒヒ」
「まおっ!?」
鼻息荒く、赤紫の目を爛々と輝かせながらにじり寄るティータに、マステマは怯えた顔をして耳を伏せ、後ずさる。
「だっ、大丈夫ですよ魔王様! 私は確かにロリコンですが、YESロリータNOタッチの精神で愛でるだけの人畜無害なロリコンですから!」
自らロリコン宣言をするティータである。なおロリコンとはロリータ・コンプレックスの略称であり、少女に欲情する人間のことを指す人間界の俗語である。精神医学的にはペドフィリアというが、それはこの際どうでもいいだろう。
「まおー」
こちらは真紅の目を細め、胡散臭そうにティータを見ながら自分でパジャマを脱ぎ、日常着に着替える。見た目は三歳児だが頭脳は三歳児ではないようだ。ティータが近寄ろうとするとマステマは牙をむいて威嚇した。
「ううっ、そんな魔王様も可愛い」
ティータは離れたところからマステマの着替えを堪能するのだった。
朝食を終えると、ティータはまたため息をついた。
「まおー?」
「すいません、魔王様。魔界が荒れていくのが悔しくて……魔王様の魔力が回復すればすぐに収まるのは分かっているのですが」
それを不思議そうに見上げるマステマの丸い目微笑みを返し、ティータは現在の状況を説明した。すると、マステマは立ち上がって自分の部屋へと走っていく。
「魔王様?」
しばらくして、マステマは小さなポシェットを肩から下げてやってきた。中に入っているのは、魔界を統べる者の証である魔王の印章だ。
「こ、これはまさか……印章を見せて『控えおろう!』とか言う、アレですか!?」
「まおー!」
自分の意図が伝わったことに満足した様子で頷くマステマである。つまり彼女は魔界の国々を巡って各国の抱える問題を解決し魔王を名乗る悪魔達を再服従させていこうと提案しているのである。
「そう都合よく問題ばかりが起こっているのでしょうか? でも確かに、魔王様がご健在だと分かればあの悪魔達もまた偉大なる大サタンにひれ伏すに違いありませんね。分かりました、私はどこまでも魔王様にお供しますよ!」
(今のマステマ様では力で服従させるのは無理でしょうが、しょせんは権力欲丸出しの馬鹿悪魔ども、このマステマ様の可愛らしさを見れば一発で
「ウヒヒヒ、二人旅……」
「ま、まお……」
気持ち悪い笑顔を見せて空を見るメイドに不安な顔をするマステマだが、混乱する魔界を治めるため、魔王城を出て諸国をめぐる旅の第一歩を元気よく踏み出すのだった。
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