神様のギフト間違ってます!〜剛健令嬢は可憐な令嬢として幸せになりたいんです〜
石月 和花
第1話 剛健令嬢
神様、お願いです。
もしも生まれ変われるのなら、次は可愛くて健康で太らない身体が欲しいです。
薄れゆく意識の中で、最後に私はそんな事を思っていた。
私は自己免疫疾患の持病が悪化して、呆気なく20歳でこの世を去ったのだ。
入退院を繰り返し、薬の副作用で常に顔はお月様のようにまん丸で、身体もパツパツであった。だから女の子らしくおしゃれを楽しみたくても、見た目のコンプレックスの方が勝ってしまい、鏡を見るのも嫌で出来なかったのだ。
そんな私が、人生の最後の最後に理想の自分になれるように願ったのだが、まさかそれが本当に叶うとは思っても見なかった。
私、ナタリー・ルシーヌ18歳、侯爵令嬢。
人生二度目である事を、唐突に思い出したのだ。
そして自分が二度目の人生であると理解すると、今の理不尽な状況にも納得ができた。
私ナタリーは、侯爵令嬢と言っても、世間一般の可憐な御令嬢とはイメージが程遠かったのだ。
何をやっても何を食べても、直ぐに筋肉が付くのだ。そのせいで上腕二頭筋なんかも逞しくて既製品のドレスはまず着れなくて、その屈強な立ち姿から、剛健令嬢なんていう二つ名まで付いてしまっているのだ。
そう、私は前の人生で最後に願った願い事を誤ったのだ。
(確かに、私は健康で太りにくい身体が欲しいと願ったわ……でも、でもね……神様、コレはあまりに思ってたのと違います……)
私は現実の自分を見て泣いた。
私は太らないのだが、それは脂肪が全部筋肉になる体質だからだ。
確かに顔は可愛いし、無駄な贅肉など無く身体は引き締まっていて、前世の最後の願い通りではあるのだが、いかんせん逞しすぎるのだ。
だからお陰で夜会に参加しても全戦全敗で、もう18歳だというのに婚約者が決まらなくて、私は焦っていた。今日の夜会で、何としてでも男性から声をかけて貰わなければ。
そこで私は男性受けが良いと言う流行りの型のドレスを身に纏い、今日の夜会に賭ける事にした。
神様が可愛くしてくれた顔だけは自信があるので、こうして可憐な令嬢に擬態して一人で立っていれば、きっと直ぐに殿方が声をかけてくれる……そう思っていたのだ。
しかし……現実は甘く無かった。私のそんな目論見は外れて、一向に誰からも声をかけてもらえなかったのだ。
そして、一人でポツンと立っているナタリーに聞こえるかのように、他の参加令嬢が彼女の装いを嘲笑うのであった。
「まぁ、剛健令嬢がまた夜会に参加してますわ。」
「本当、殿方よりも逞しいですわね。私にはとてもあんなドレス姿で夜会に参加できませんわ。」
こちらをチラチラと見ながら、彼女たちは私に聞こえるような声で言うので、流石に気付いてしまった。
どんなに着飾ったところで、剛健令嬢は剛健令嬢なのだと。
こんな逞しい令嬢に声をかけてくれる男性など居ないのだなと、悟って泣きそうになった。
私の陰口を叩く彼女たちのように、華奢で可憐な見た目じゃないから、どう足掻いても駄目なのだ。
それに気付くと居た堪れなくなって、私はそっとバルコニーへ抜け出した。
華やかなパーティー会場にこれ以上居たくなかったのだ。
しかしそこで、私は思いもよらぬ物を目にしたのだった。
人間の足だ。
目の前に人間の足があるのだ。
私は驚いて上を見上げると、上の階のバルコニーの柵に手をかけて、今にも男の人が落ちそうになっているのだった。
ここ3階なのに!!
「なっ……何をなさっているのですか?!!」
「ああ、お嬢さん。見ての通りちょっと困ったことになってるんだ。誰か呼んできてくれないかな。」
欄干にぶら下がっている男の人はそう言うものの、見るからに彼に余裕は無さそうだった。今から人を呼びに行ってはとてもじゃ無いが間に合わない。
そう判断して私は目の前にぶら下がる足をガッツリと掴んだのだった。今はこれしか無かった。
「私が受け止めますから、どうぞ手を離してください。」
「御令嬢には無理だよ!!」
「いいえ。私を信じて下さい。何せ私は剛健令嬢ですから。」
あんなに嫌だったこの二つ名があって良かったと、今だけはそう思った。
剛健令嬢と聞いて、彼は素直に手を離して身を任せてくれたのだ。
だから私は力一杯彼をバルコニーに引き込むと、そのままの勢いで二人で倒れ込んだのだった。
神様のギフト間違ってます!〜剛健令嬢は可憐な令嬢として幸せになりたいんです〜 石月 和花 @FtC20220514
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