筋肉が泣いている

136君

筋肉が泣いている

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ〜っ」


30分の空気は美味しく感じる。ガンガンに音楽が鳴っている中、俺たちは泳いでいた。次は、キックか。


「ぃきまぁーす、よーぃゴー!」


マネージャーの合図と共に、先頭がスタートする。次々にスタートしていって自分の番に。出た記憶こそあるものの、そこから先の記憶はない。


 キックの後にほぼ休憩なくプル(腕だけで泳ぐ練習)もやって、今はドリル(泳ぎを整える練習)だ。やっと呼吸も整ってきて、視界が綺麗になってきた。


 脚も腕ももう限界に近い。動きはするものの、ダッシュはできないだろう。まったく、学校でやっていた練習はなんだったんだか。


 ここ数日は他校との合同練習。いつもと違うプール、いつもと違うメニュー、いつもと違うメンバー。新しい発見があるかもと思って毎日練習に来ているが、それ以上にキツかった。


 昨日も一昨日も、帰るのはmiddle組が終わったあと。外はもう月が出ていて、ピー也と2人で「今夜は月が綺麗だね」とか冗談を言っていないと精神を正常に保てない状況だ。


 そんなことを思い出していると、いつの間にかドリルが終わってしまった。


「はい、メイン行くで。今日は600m×5本、800m×1本。サークルは長なって行くからちゃんとタイムを上げていくこと。上(60秒)から行くで。」

『はぁい⤵』


全員のテンションがどんどん下がっていく。しょうがない。果てしない旅が始まるんだから。


 泳ぎ始めてすぐに気づいた。肩が上がらない。どんなに水を掴んでも指の間をすり抜けていくし、掴めたとしてもそれを押す力もない。ターンする度に太腿ははち切れそうになるし、脳が揺れる。ラップタイムはどんどん落ちていくし、もう散々だ。


 ひとまず600mは泳ぎきったが、体力はほぼ底をついている。あと3200mも泳げるのか。答えは否だ。もうそんな気力もない。


 あぁ、筋肉が泣いている。

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