筋肉で説明する、冬に電車から降りると眼鏡が曇るあの現象

白ごじ

第1話

 筋肉ムキムキ男(温かい空気)は、満足そうにタオルで汗を拭いた。



「今日もいい汗かいたぜ。ここで冷たい水を一杯するのがたまらんってわけで」

「コラァ!」

「うわっ」



 ムキムキは急にかけられた声に振り向いた。

 筋肉ヒョロガリの眼鏡男(冷たい空気)が肩を怒らせて近づいてくる。



「俺の縄張りから今すぐ出て行け!」

「ここは公共のジムだぞ?」

「ああもう、危ないから出て行けって言っているんだ!」

「危ない? どうして?」


「お前と俺の筋肉は水蒸気で出来ているからだよ!」



 ムキムキはそっと片腕を持ち上げた。ふんっ、と力を込める。筋肉が盛り上がった。

 心なしか、筋トレ前より一回りほど小さく見えた。

 ムキムキは真剣な顔をしてヒョロガリの方を向いた。



「詳しく頼む」

「お前がムキムキなのは、筋トレの効果じゃない。そもそも水蒸気を捕まえやすい体質なだけだ」

「そんな馬鹿な!」

「うるせぇ毎日腕立て十回程度でその体になる訳があるか体質だ! 俺は水蒸気が嫌いだ。見るだけで吐きたくなるね」


「まあ、そういう体つき……しているよね……」

「お前のど頭に吐いてやろうか?」

「ごめんなさい」

「ふん。聞いたことくらいあるだろ、夏は洗濯物が乾きやすい、冬は乾きにくい、って。空気は温かければ水蒸気をよく取ってくれるし、逆に冷たければろくに水蒸気を取れない。つまり」

「つまり?」

「水蒸気をしこたま掴んだお前みたいなムキムキが、俺の冷たくて乾いた縄張りに入ってくると、水蒸気は冷やされて水になる。これを結露と言う」



 ムキムキはしょんぼりと力こぶを作った。

 はっきりと、さっきよりも小さくなっているのが分かる。



「僕の筋肉、水蒸気達はどこに行ったのだろうか」

「俺の眼鏡を見ろ」

「わぁ、真っ白」

「これが結露の力だ。前が見えん」

「これが全部僕の筋肉から出たのか。すごいな!」

「なんで喜んでるんだよ困れよ恐がれよさっさとどっか行けよ。こっちは体中しっとり濡れるし下手すりゃ壁や床にもカビが生えかねないし、面倒なんだぞ」

「そ、それは。僕の筋肉がすまない。どうしたら、君に迷惑かけずにここに居られるだろうか」

「いや出て行けってさっきから言っているのだが?」

「せっかく友達になれたのなら、色々話したいじゃないか!」


「とも……だち……?」


「あれ? 違った?」

「ふん。そうか。ふん……ふふん、仕方ないな。ふふん。そこまで言うなら、ああ仕方ない、教えてやろう。ふふん。結露っていうのは単純に温度差、水蒸気の含有量、つまり湿度差があると出る現象だ。こまめに換気をする、除湿や加湿を適宜行うこと。それも難しければ、眼鏡には曇り止めスプレーやクロスを使えばいいのさ」

「そっか、わかったよ。ありがとう。ちょっと曇り止めスプレー買ってくる!」



 この日以降、窓を全開に換気をしつつ、共に筋トレに励むムキムキとヒョロガリが見られたそうな。



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筋肉で説明する、冬に電車から降りると眼鏡が曇るあの現象 白ごじ @shirogoji

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