婚約破棄は卒業パーティーで

葉舟

第1話

 あなたがわたくしにくれたものは、不快感と苛立ちと、どうしようもない怒りでした。


 ストレスから過食になり、太った自分が好きになれなくて、ストレスは運動で解消するようにした。


 運動はすればするだけ、筋肉という結果をくれる。何より、浮気男とは違って、筋肉は裏切らない。


 貴族学院の卒業パーティー。新成人にとって最初の社交の場。そんな晴れがましい場に、浮気男は泥棒猫を引っ付けて、婚約破棄を告げにきた。


 婚約破棄はOKですよ。浮気男な上にバカなんていらない。

 会場の中心で男爵令嬢をくっ付けて、公爵令嬢に婚約破棄を告げている王子のマネですか。


 マジでこの男、バカすぎる。


 我が家は伯爵家で、あなたの実家は子爵家。我が家からの援助を欲しがっているのは、そちらの実家ですよ。


 婚約期間くらい身綺麗でいろ。


 結婚後なら男の甲斐性で済まされる事もありますが、実家の力関係であなたは許されないですよ。


 王族とは違うのですよ、王族とは。


 あなたはわたくしについて、何も知ろうとしてくれなかった。わたくし、ゴテゴテした指輪、好きじゃないの。でも、あなたはそんなことすら知らなくて、趣味の悪い指輪を全ての指にはめてくるなんて醜いと嘲笑う。


 でもね、今日だけは、繊細な細工の指輪じゃダメなの。だって今日、この日のために用意した指輪はメリケンサック用だから。


 浮気者の婚約者と通う貴族学院、とってもとっても苦痛でだったの。


 だからね、わたくしのこの思いを受け取ってね。



 筋肉は裏切らない。



 女の情念を込めたパンチは浮気男を会場の中心まで吹っ飛ばした。続いて泥棒猫も吹っ飛ばす。


「政略結婚に恋愛を持ち込まないで下さい。愛情がないのはお互い様。だからこそ、形式が大事なの。きっちり、賠償請求しますので、次は法廷で会いましょう」


 全てをふっ切った笑みで元婚約者と泥棒猫に告げた。なぜか、会場中の視線を集めていたので、深々と謝罪をしておく。


「お騒がせして申し訳ありません。わたくしの方は終わりましたので、殿下方は続きをどうぞ」


 長居は無用とわたくしはそそくさと会場を後にする。




 貴族学院に通っていた頃は全く接点のなかった公爵令嬢と、なぜかお友だちになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄は卒業パーティーで 葉舟 @havune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ