プール

泉葵

プール

プールはあまり好きではない。

水の冷たさも体を動かす楽しさも好きだけど、裸にならなければいけないのがとても嫌だ。別に体のどこかが変というわけじゃない。ただ自分の体がみすぼらしくて恥ずかしい。

高校最後の夏休みや実際は高校2年生の夏だ。3年になると就職や受験に時間を奪われる。

8月半ば、夏休みはまもなく終わろうとしてる。謙太はバスに揺られていた。

地元にもプールはある。けどそこは廃校を利用したプールで正直面白くない。どうせなら流れるプールやらスライダーで遊びたい。啓一たちはいろいろと話し合うと隣町のアトラクション型プールに行くことになった。

謙太に行く気はなかったが、高校最後だからと誘われて断れなかった。


みんな先に更衣所を出ていく。やっぱり来なければよかった。

謙太は皆が出ていったのを確認して更衣所を出た。

外は風が気持ちよく、消毒剤の匂いが鼻を突いた。

「謙太こっち」

声のする方を見ると、祥太郎が手を振っていた。

駆け寄るとみんな一度プールに入ったようで、立っているところを中心に水が滴らせていた。

祥太郎も啓一もみんな運動部で、よく見るとそれぞれ何部か分かる。

祥太郎は陸上部でふくらはぎと太ももが綺麗な形をしている。雨の日は筋トレをしていることもあり、腹筋もうっすらと割れ目ができていた。

啓一も筋骨隆々であるが、少しふくらはぎが変わった形をしている。これはサッカー部のやつのふくらはぎだ。

「スライダーいこうや」

啓一がそういうとみんなもその声に従う。

走る度にふくらはぎが本当の姿を現し、まるで怪物のようになる。変形して尖り、成形されていく。

謙太は視線を下に向けた。うっすらと肋骨が浮き出ていて、筋肉も脂肪もないお腹には綺麗に線が入っている。脚に力を入れると、わずかにふくらはぎが変形した。啓一たちと比べると子供の犬のように可愛らしいものだった。

見るんじゃなかった。

現実を目の前にすると、自分がより貧相に見えて顔が火照った。みんなが僕を見ているような気がした。

1人だけなんかガリガリじゃん。あの子以外は筋肉すごいね。

謙太は祥太郎の背中を見ながらスライダーまで歩いた。


「ごめんちょっと体調悪いから帰るわ」

「マジ?大丈夫?」

みんなは優しい。気遣ってくれる。

「帰れはするから、大丈夫。もしリバースするとやばいから先帰るわ」

「じゃあ俺らも帰る?結構遊んだし」

「いや大丈夫だから。まだ時間もあるし遊んでいいよ。最後でしょ?」

一人になりたいのに啓一たちは一緒に帰ろうと、謙太に声をかけた。

あれこれ言い続けているうちに向こうも「そこまで言うなら」とまたスライダーへと向かった。

体調は悪くない。けれどこれ以上いると周りの視線に押しつぶされそうで耐え切れなかった。

1人バスに揺られる。外を見るとみんながまだ遊んでいるであろうプールが見え、すぐにスマホに目をやった。

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プール 泉葵 @aoi_utikuga

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