彼女のお父さんは筋肉で出来ている。

矢斗刃

彼女のお父さんは筋肉で出来ている。 

俺の目の前には筋肉のお父さんがいる。


「筋肉こそ素晴らしい!」とか言っている彼女のお父さんだ。

自分に酔っているようで、その眼光は俺を睨み殺そうとしている。


「もし娘に手を出すというのなら・・・この筋肉を倒して行くのだ。」


マッスルポーズをする。

上腕二頭筋が何かを語ろうとしているような気がしてならない。


あの筋肉に・・・俺は今日、殺されるかもしれない。


俺のすぐ隣にはにっこり顔の彼女がいる。

「ほら言って。」と小声で俺に促す。

そう今日俺は・・・付き合い始めてその報告に来たのだ。


「いや無理、死にます。」

「私のこと好きなら死んで!」とか言っている彼女は無視だ。


俺と筋肉お父さんは火花を散らしていく。


「お、俺に・・・筋肉をください。」

お父さんのプレッシャーに負けて変な事を口走る俺。


「はっ?何言ってんの?」と若干切れ気味の彼女。


俺はきっと今日この家族に殺されるかも知れない。

急に胸が苦しくなる。


「胃がぁー胃がぁー。」と苦しむ。


「そこ胸だからね!はぁー仕方ないわね。」と代わりに話し出す。


「お父さん、私達付き合うことにしたから・・・認めてね。」

俺の腕に彼女の腕を回してくる。


「なにぃー!許さん、許さんぞぉぉぉぉ!父さんは認めんぞぉぉぉぉぉ!」

後ろから火花とマッスルポーズで決めている。


そのプレッシャーは半端ない。


俺は雰囲気に飲み込まれて置物になってしまったかのようだ。


「お父さん私、筋肉嫌いなの。だから、かまわないで!」

娘の死刑宣告で意気消沈する筋肉お父さん。


「筋肉よ。俺は燃え尽きた。もう筋肉の時代は終わったのかもしれない。」


「後は頼んだよ!」と俺の肩を叩く。


しょぼくれたお父さん、心なしか筋肉もしょぼくれているようだった。


「いいのか?」

「いいのよ。またすぐに戻ってくるのだから・・・。」


「プロテイン、プロテインはどこだ!」といつの間にか元気を取り戻している。

「君もプロテインを飲もう。」と進めてくるその味は鉄の味がした。


「ならば君も筋肉になるんだ!」と指導を始めようとする。

「た、助けてくれ。」と彼女を見る。


「筋肉がまったくないのもね。」という言葉で俺は悟った。


面倒くさいお父さんの生贄にされたのだと・・・


「いいか筋肉の声を聞くんだ!」凄まじい速度で腕立て伏せをする。

「なんですかそれは!」と俺も始めた。


「すべての筋肉はかっこいいのだ!」とマッスルポーズ。

「わけわかんないです。」と筋トレでへたり込む。


「筋肉!筋肉!」と言って重いダンベルを持ち上げるお父さんは化け物だった。

俺はもうダメだった。後は任せたと彼女の事を思うのだった。



「私の娘への思い・・・思い知ったか!筋肉勝利!」とマッスルポーズで勝ち誇っていた。


「お父さん、ウザイ。」

その娘の一言で筋肉お父さんは灰色になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女のお父さんは筋肉で出来ている。 矢斗刃 @ini84dco5lob

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ