事件後の余波
落書き事件に端を発する、大型洗脳未遂事件は幕を閉じた。
だが、この事件を追っていた僕達は精神的にショックを受けてしまった。事件を起こした動機、そして被疑者死亡という結末を迎えたからだ。
僕と雨月は学校で顔を合わせる度、どうすれば最善の結果になったかを話し合った。けど、そんなことをしたって過ぎ去った過去を変えられるはずも無く、そもそも解決案が出てこずお互いに沈黙してしまうのがパターン化してしまっていた。
そんな中、僕と雨月は北山先生から呼び出しを受けた。
「伊藤さんですが、次の事件の解決をするため海外に向かいました。お2人によろしく伝えてくれ、と」
「急ですね」
「まぁ、忙しい人ですから。1つの事件が解決したら挨拶する暇も無く旅立ってしまうのはよくある人なので。それよりも……」
北山先生は、僕と雨月の顔をのぞき込みながら言った。
「石田君も雨月君も、ここのところ浮かない顔をしていますね。そんなにあの事件を気に病んでいるんですか?」
「そんなにわかりやすかったですかね、俺達」
「駆け出しのバウンティハンターであれば誰もが通る道ですから。よければ私に話してくれませんか? それが教師として、先輩バウンティハンターとしての私の役目ですから」
そういうことならと、僕と雨月は北山先生の厚意に甘えて話すことにした。
「あの事件は、子供と大人の恋愛が社会的に認められていれば防げた事件でした。そういう社会だったら在原康子はいずれ伊勢高男が児相に通報して救われていたと思いますし、西行代の娘も周囲の人が助けていたと思います」
「でも、子供の恋愛感情を利用されて虐待事件が起きてしまう可能性が出てくるんです。結局、どう考えてもこの問題が出てきてしまって、全ての人が幸せになれる方法が見つからないんです」
「なるほど、そうでしたか」
そして北山先生の口から出てきた言葉は、とても教師が言うこととは思えないものだった。
「権利というのは、全ての人が平等に持つべき物です。ですが実際には、『あちらが立てばこちらが立たず』な物だと私は思っています」
「『あちらが立てばこちらが立たず』……ですか」
「はい。例えば、裁判官などが代表的な例ですね。
この国では全ての人が公正公平な裁判を受けることが出来ると保証していますが、その一方で裁判官の表現の自由が制限されていると指摘されています。裁判官が政治や事件について意見を述べると、裁判官の思想によって判決が公正公平ではないのではと疑われるからです。
一応、個人としての意見は表明していいことにはなっていますが、現実には意見表明を行うと免職されてしまう場合が多いです。
もちろん、この状況を問題視する声もあるのですが、上手い解決策が見つからないのが現状です」
先生は裁判官を例に出したけど、他にも似たようなことは色々あるのだろう。
僕と雨月が悩んでいた子供と大人の恋愛に関することも、その1つだ。
「では、俺達は何も出来ないんですか?」
「全ての人の権利が完全に守られる上手いやり方は無いと思いたくありませんが、おそらく1000年に1人の天才でも無い限り思いつかないでしょう。私たちに出来ることは、問題を風化させずに議論を続け、手探りで模索し続けることだけだと思います」
少し話が逸れますが、と北山先生は断り、さらに続けた。
「犯罪というのは、家庭や社会など様々な問題が濃縮した存在です。それに日夜関わっているバウンティハンターは、嫌でもその問題を常に目の当たりにする職業です。
その影響からか、現役を引退したバウンティハンターの一部の人は政治家の道を歩まれる方もいます。
もし、石田君と雨月君が40代や50代になって現役を引退した時、社会に対しての問題や矛盾にまだ思い悩んでいたとしたら、政治家を目指すのもいいかもしれませんね」
今回の事件で、僕と雨月は社会の問題や矛盾、それこそ北山先生が言った『あちらが立てばこちらが立たず』を目の当たりにした。
そしてこれからバウンティハンターを続けていけば、もっと色々な問題や闇、理不尽なものを直視するだろうし、それらに思い悩むと思う。
でも、それらは僕の知識や血肉になるし、いずれ全ての人が生きやすくなるヒントが見つかるかもしれない。もし見つけられなくても、『1000年に1人の天才』のために何か残せるかもしれない。
そのためにも、今はバウンティハンター業に邁進しよう。そう心に誓った。
特技『肉体改造』を獲得した僕、バウンティハンターを目指します 四葦二鳥 @keisuke1011
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