初実戦は痴漢捜査

 僕が金章学園に入学してから半月ほどが経った。この時期になると、新たな学校生活にも慣れてくる。

 ちなみに授業内容は、7割程度が普通の高校と同じ授業で、残り3割がバウンティハンター関連の授業。そして半年ごとに時間割が変更されるのだが、その度にバウンティハンター関連の授業の割合が増えていく。


 そんなある日、僕は北山先生に呼び出されていた。しかも教室や職員室では無く、『依頼室』という聞き慣れない部屋だった。


「急に呼び出してすみません、石田君」


「いえ、別に……」


 と言いつつ、実は内心ビクビクしている。気がつかないうちに僕が何かやってしまったんだろうかと不安になる。


「まず、この『依頼室』ですが、バウンティハンターとして仕事を依頼するときに使う部屋です。バウンティハンター養成校には必ずある施設ですね」


「そうなんですね」


 って事は、僕にバウンティハンターとして仕事を依頼したいのかな?


「石田君は、最近騒がれている不可解な痴漢事件をご存じですか?」


「そういえば、朝のニュースとかでやっていましたね」


 実は今月に入ってから、妙な痴漢事件が少し話題になっていた。

 電車内で女性が誰かにお尻を触られているというものなんだけど、被害者の証言によると『人間の身体とは思えないほど硬い物』が当たっている感覚だったらしい。

 しかも、ある被害者が勇気を持ってスマホのカメラで自分の後ろを撮ったんだけど、なんと誰も自分のことを触っている様子が無かった。


 一体誰が、どういう手段で痴漢行為を働いているのか、全てがわからない謎の事件だった。


「実は、バウンティハンター協会もこの痴漢事件の早期解決に向けて動いていまして。そんな中、石田君の性別を変える肉体改造に興味を持ったんです」


「つまり、僕に囮捜査をして欲しいんですね」


「まぁ、はい……。ですが、石田君はまだ入学してから半月。それに犯人も何をしてくるかわからないですし、怖いなら断って貰っても……」


「いえ、やらせてください」


 そもそも、バウンティハンターを目指すと決めた時点で危険なことは百も承知。それに、金章学園を受験すると決めたときから訓練に明け暮れた。最低限、身を守る程度なら出来るはず。

 あと、この学園は電車通学している人も多く、当然ながら女子もいる。いつまでも痴漢される恐怖と戦いながら神経すり減らして通学させるわけにはいかない。


「……わかりました。報酬は依頼を受けた時点で15万円、その後の捜査状況や危険性等を考慮して追加報酬が支払われます。

それと、石田君はバウンティハンターの活動は未経験なので、必ず一人以上協力者を作ってから捜査に当たってください。もちろん、協力者にも同じ条件で報酬を支払います。

この条件でよければ、こちらの書類にサインを」


 説明をよく聞き、条件に納得した僕は北山先生が差し出した書類にサインした。




 それから1週間後。


「準備はいい、雨月?」


『ああ。よく見えてるぜ、石田』


 私は件の謎の痴漢を逮捕するため、自宅や学園の最寄り駅である『久野駅』に来ていた。

 久野市は首都圏内に入っており、電車で1時間もあれば東京に着く。逆に言えば、東京と繋がっている主要路線が通っている。

 そして例の痴漢は、その路線内で発生しているそうなのだ。


 なので、私は女子に変身し、学園から支給された変装用の制服を着て久野駅から電車に乗り込もうとしている。

 さらに、今回は使う機会が無いとは思うが女子としての身分証もバウンティハンター協会から支給された。これがあれば、名実共に女子しか入れない場所へ堂々と入り、バウンティハンター活動を行うことが出来る。

 なお、女子になっているときは『石田 うみ』と名乗っており、身分証にもそう記されている。


「それにしても、今回は私に協力してくれてありがとうね」


『気にすんなよ。俺も早めに現場に出てみたかったし、こういう事件にも俺の特技が生きるだろうしな』


 北山先生から必ず協力者を集めてから捜査に当たるよう言われていたが、それについては雨月に頼んだ。入学したてで仲いい人があんまり居なかったのが大きい。

 その点、石田は受験で同じチームになっていたから仲がいい方なんだよね。本人もやる気になっていたのが幸いした。


 今回の依頼を受けてから雨月と作戦会議したり連携を確認したりしたので、1週間も準備に費やした。突貫でなんとか形になったとも言える。

 今回、雨月は私とは距離を開けて監視しており、お互いにワイヤレスイヤホン型の無線で会話をやりとりしている。

 周りには、音楽を聴いているようにしか見えないだろう。

 もちろん、雨月もカモフラージュ用の学ランを着ている。


『ほら、電車が来たぞ。気合い入れていけよ』


「うん。作戦開始だね」




 それから数日後の事だった。

 私と雨月は毎朝この囮作戦を続けてきたが、ついに獲物がかかる瞬間が訪れたのだ。


「ん?」


 私のお尻に、何か感覚が……。それも満員電車で偶然触れたとかではなく、明らかになで回しているような感じ……。

 さらに、感触が硬すぎる。どう考えても人間の身体の硬さじゃない。


(雨月、ホシが私に接触してきた。確認して)


 早速イヤホンに偽装した無線で、周りに悟られないよう小声で雨月に連絡を取るが、なぜか返事がない。

 返事が返ってきたのは、10秒ほどかかった時だった。


『石田、驚かないで良く聞いてくれ。お前の尻にな――人形が張り付いている』


 ……はい?


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