特技『肉体改造』を獲得した僕、バウンティハンターを目指します

四葦二鳥

僕の転機

 人生の転機というのは、誰しも一度や二度はあると思う。

 この僕『石田 かい』の場合、人生の転機は中学三年生の時、連休前の事だった。

 その日、僕達生徒は新学期早々に受けていた健康診断の結果が返されていた。


(ま、概ね問題無しか。ん、これは……)


 健康診断の結果は大きめの封筒に入れられているのだが、中に入っていたのは結果を通知する書類だけでは無かった。

 クレジットカードの明細書みたいな封筒が同封されていたのだ。

 すると、先生から追加の説明があった。


「中に小さい封筒が入っていた人は、保護者の方と一緒によく読んで、改めて病院で検査を受けてください。なお、受診できる病院は指定されているから間違えないように」


 なんと、診断結果は問題が無かったはずなのに、なぜか再検査になってしまった。同じく封筒が入っていたのは、僕も含めクラスの中では三人らしい。

 もしかして、なにかヤバい病気でも見つかったのか?


 この日、僕は不安に駆られながら学校で一日を過ごした。




 数日後、僕はお母さんと一緒に病院を受診した。

 なお、この日は平日。僕は学校を休んで病院に行ったのだ。というのも両親共に警察官で、サラリーマンや普通の公務員とは休日や勤務時間がかなり違う。

 だから、どうしても平日に病院を受診せざるを得なかったのだ。


 そして諸々の検査を終え、医師の口から検査結果が伝えられた。


「間違いありませんね。息子さんは『特技』をお持ちになっています」


 『特技』。およそ1世紀前に突如として世界に現れた特殊能力のこと。

 全人口の3割程度が特技を持っているとされ、その内容も多種多様。あっても無くても大して意味がなさそうな物から、とんでもなく危険な代物まで幅広くある。

 そしてもちろん、特技の出現は否応無しに様々な変化を社会にもたらした。


「まぁ、それはそれは。それで、息子はどんな特技だったんですか?」


 お母さんは、困惑と喜びが半々……いや、8割喜びだな、そんな声を上げていた。

 なにせ警察官は、特技について日常的に接する職業の1つだから。特技1つで人生が激変するのも、お母さんはよく知っていた。


「『肉体変化』ですね。割とよく聞く特技です。ただ……」


「詳細は自力で調べなければならないんですよね? よく知っていますよ」


 『肉体変化』。文字通り、自身の身体を変化させる特技で、結構持っている人が多いと言われている特技の1つだ。だが、肉体変化は多様性が非常に多い特技としても知られている。

 実は、同じ肉体変化でも人によって得意なことや効果が違い、単純に筋力を上げる人もいれば、声を自由自在に操るモノマネ芸人垂涎の能力を持つ人もいる。

 極めつけに、他の動物の特徴を出現させる人もいるらしい。


 で、厄介なことに自身の肉体の何を変化させられるかは、現代医学では診断方法が無い。自力で色々と試してみないとわからないのだ。


「この子の特技については、私と夫も協力して調べます。いいわよね、海?」


「う、うん、まぁ……」


「というわけで先生、今日はありがとうございました」




 それから、お父さんも交えて僕の特技研究が始まった。

 両親共に警察官という特技が身近な職業なので、研究のやり方や方針はトントン拍子に決まった。こういうノウハウは色々な組織がノウハウを構築しており、やり方が違う。しかも有効的に調べる方法は世間にあまり知られていないため、こんなに早く研究が進んだ僕は恵まれているんだろうな。


「……なるほど。五感の強化は不可能。筋力は瞬間的に強化されるだけ。正直、これが海の肉体強化の全てとは思えないな……。もうちょっと可能性が他にないか考えてみるよ」


「わかった、お父さん」


 この日、ようやくわかったのは筋力を瞬間的に強化されるだけ。ただこのパターンは、肉体強化の本質ではないパターンが多いらしい。

 そういうわけで、また別の可能性を探ることになった。


 研究の後、僕は気に入っているゲームをプレイしていた。


「あ、このスカートかわいい。買お」


 僕がプレイしているのはサードパーソンシューティングゲーム、いわゆる『TPS』というジャンルに分類されるゲームだ。

 TPS本来のゲーム性はもちろん、ゲームの本筋には関わらない部分も非常に充実していることで有名なゲームなのだ。

 というのもキャラメイクの自由度が高く、ファッション機能も充実。なんと下着まで着せ替え可能という、充実を通り越した領域に突っ込んでいる。

 僕はファッション機能があるゲームに関しては、女性キャラでプレイすることにしている。とにかく自分の理想的なカワイイ女の子にしたいからだ。

 そういう事情で、僕はこのTPSゲームと相性が非常によかった。キャラのあらゆる部分を自分好みに調整でき、カワイイ女の子をデザイン出来るから。


「あー、やっぱり正解。過去最高にかわいいんじゃないか? ……ん?」


 なんか自分の声がおかしかったような……。具体的に言うと、声が高くなった気がする。

 それに目線も低い気がするし、胸と股間に違和感がある。


 とにかく今の自分がどうなっているか気になったので、恐る恐る鏡の前に立ってみると……。


「な、なんだこれーーーーーーーー!!!!!」


 そこには、どことなく僕の面影を残した、僕の考えるカワイイ女の子が写っていた。

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