【KAC20235】力こぶは、上腕二頭筋だよ

ぬまちゃん

ふぁああああーっ、と。

 昼休み、いつものように焼きそばパンを食べ終えると、満腹感が彼の体を駆け巡り、何とはなしに大きなあくびをして、彼は机に突っ伏した。

 すると、それを見ていた、噂好きな級友が彼の横の椅子に腰かけて言った。


「まだ午後の睡眠の時間には早いぜ」

「何言ってんだよ、昼休みに昼寝をしなくて、いつするんだ?」

「昼寝は午後の授業中にするんだよ。休み時間は友達との大事な会話の時間だぜ。それが高校生の常識だろ」


 そんな二人の横を通りかかった運動部のM男が、突然彼らの話に割り込んできた。


「あはは、そりゃそうだな。俺らも朝練して昼飯食っちまったら、夕方の練習まで授業中は夢の中だもんな」


 話しかけて来た彼の腕や足は、制服がはち切れんばかりに盛り上がっていた。彼がいると、その周辺に妙な圧迫感が生じるほど彼の体格は凄かった。


「知ってるかお前ら? 俺らがウエイトトレーニングしてるとな、よくあくびが出るんだよ。それって酸素が脳に行かないで、筋肉に行きわたるからなんだってよ」


 彼はそう言ってから、シャツをまくり上げて上腕二頭筋を見せびらかすように力こぶを作り上げた。


「すげぇなあ、お前のその筋肉。どれくらい練習すればそんなになるんだ?」


 噂好きな級友は、彼の力こぶを見上げるようにしてため息交じりにつぶやいた。


「毎日トレーニングすれば、あっという間さ。お前たちも昼休みにダラダラしてないで、俺とトレーニングしないか? そうすれば、女子高生の憧れになれるぜ」

「あー、おれは良いよ、遠慮しとくわ」

「俺も、遠慮するぜ。それに、こいつには幼馴染の彼女がいるから関係ないしな」


 運動部の彼は、二人がトレーニングに乗り気にならないので、つまらなそうに教室の反対側に歩いて行った。


 彼が去ったのを確認するように、幼馴染の彼女が彼らの前に現れた。


「筋肉大好き高校生って、ちょっと近寄りがたいよね、私としては」

「でも、ムキムキが好きな女子もいるんだろ?」

「まあそうだけど。でも、私は、好きじゃないな筋肉」


 君の力こぶなら見て見たいけどね……。


 机の上でだらんとしている、幼馴染の彼の腕をじっと見ながら、彼女はちょっとだけほほを赤く染めた。


(了)

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