ボクシング・タイトル
馬村 ありん
オープニング――トガワ(ボクサー)
トガワの右ストレートがイシノの首筋に叩き込まれた。強烈な一撃だった。イシノは目を見開き、よろけると、肩からマットに沈みこんだ。聴衆は息を呑み、静まり返った。レフェリーはイシノの顔近くに両膝を立ててしゃがみ込んでカウントを取り始めた。
1,2,3……!
「トガワ!」
「トガワー!」
聴衆は起立し、リングで唯ひとり立ち上がっている男に声援を送った。そして両のまぶたを腫らして、肩で荒い息をしている男の名を呼ぶ。
5,6,7……!
「トガワ」コールは大きなうねりとなって会場中に広がっていた。聴衆は誰もが立ち上がり、拍手を送った。
仰向けに倒れたイシノはトガワ以上に負傷しており、鼻穴からは血を吹き出していた。それでも対戦相手に向けた視線の鋭さだけは微塵も衰える気配はなかった。イシノはなにかに向かって手を伸ばした。その手がつかんだのは空気だけだった。
9、10……!
勝利の鐘がなった。万雷の喝采のなか、レフェリーはトガワの手を取り、挑戦者の勝利を宣言した。
フラッシュが
熱狂のうねりのなかで、マイクを向けられたトガワはふらふらの
セレモニーは続く。トガワの妻子が現れ、戦に打ち勝った夫をたたえた。トガワの3歳になる息子がリングにあげられ、トロフィーと息子とを両方抱えたトガワは、満面の笑みを浮かべた。
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