二十六歳女性声優、役を降ろそうとしたら本物の世界三大美女が降りて来たのでその才能を使って業界で無双してやろうと思います! え、無理!?
紫檀(むらさきまゆみ)
第一章 オーディション編
プロローグ『馬嵬事変』
天宝15載(西暦756年)、6月。
「安禄山の挙兵を招いた楊一族を誅殺せよー!!!」
千を超える兵士兵卒たちの怒号が、駅内に置かれた仮設の御所を取り巻いていた。
「すまぬ……! すまぬ……!」
御所の丁度中央に位置する大広間、巨大な仏像が据えられたその部屋の中心で、一人の男が力なく
「わしはお前を守れなんだ……玉環……」
男の名は李隆基。唐の第9代玄宗皇帝その人であった。
「どうか顔をお上げください、陛下」
項垂れた玄宗の頭上から、透きとおった、しかしそれでいて凛とした、美しい女の声が響いた。
その声が孕んだ慈しみ、仁愛、憐憫の情緒は、玄宗を含むその場にいた誰しもに、一瞬間に渡って戸外の狂乱の怨嗟を忘れさせた。
「私が国恩に応えられなかったこともまた事実。この命ここまでとしても、是非に及びません」
女は気丈に言い放つと、玄宗の隣に控える男に視線を向け、そして小さく頷いた。
男、玄宗の腹心高力士は、一本の索具を手に女へと静かに歩み寄る。
「陛下、どうかお元気で」
索具がゆっくりと女の首に巻き付けられた。
身震いのするような感触を覚えながら、しかしそれでも女は最期までその瞳に輝くような慈愛を保っていた。
「玉環……玉環……!!!」
玄宗が悲痛な叫びを上げる。
しかしその響きは、堂内の沈痛な空気に力なく吸い込まれていった。
「(ああ、願わくば……)」
遠のく意識の中、死がまさに迫りくるその時、女は願った。
「(願わくば……争いのない世界で……歌と舞に生涯を捧げたかった――)」
姓を楊、
そしてその皇妃としての称号により、かの “楊貴妃” の通名で知られる女の、最期の時であった。
後にこの事変は、『馬嵬駅の悲劇』として語り継がれることとなる。
その賜死の瞬間、雲一つ無い空から降り注いだ、一筋の落雷と共に――
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(筆者より)
この作品は『「賢いヒロイン」中編コンテスト』に応募しております。
プロローグ + 本編5話 にて第1章「オーディション編」が完結となります。
ハート・星での評価、応援コメントやレビューなど頂けましたら執筆の大変な励みとなります。跳ねて喜びます。ピョンピョン。
それではまた次回も是非!
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