行方知らず

PROJECT:DATE 公式

未知

梨菜「ふぁあ…終わらない…。」


波流「サボってないで、次はここ。」


梨菜「はぁい…。」


学校が終わって早々

どうして家で大掃除なんて

しているのだろうなんてふと思う。

今日波流ちゃんは部活を休んでまで

私の家に足を運んでくれた。

というのも、私がお願いしたのだ。


あまりにも片付けの苦手な私は

全てが思い出の品であるかの如く、

手に取るごとに思い返していた。

このままでは流石に1ヶ月では

終わらないことを早めに悟った。

そこで助っ人を呼んだのだ。

それが波流ちゃんだった。


波流「…っていうか、本当に引っ越すんだね。」


梨菜「ね。」


波流「ね…って。」


梨菜「いやあ、実感なくてさ。」


波流「相当だね。」


梨菜「でも、引っ越しは慣れてる方だから!」


波流「にしては全然進んでないけどね。」


梨菜「うぐぅ…。」


引っ越しは慣れているとはいえど、

高校生になって以来だ。

約2年ぶり。

それでも期間としては短い方だろう。

けれど、これまでとは違い

長く長く住むだろうと思っていたからこそ

全ての段ボールを畳んでいた。

いつもは所持品の半分は

段ボールに入れていたままだった。

そこから出し入れをしていたっけ。

すぐに引っ越すのだとわかっていたから。


今回に限っては

ある一種サボらなかったから

今痛い目を見ていた。

サボらない方が痛い目を見るなんて

利点が何一つもないように見える。

何だか悔しい。


波流「ほーら、次はこっちの棚。」


梨菜「はあい…。」


波流「これ終わったら一旦休憩しよう。」


梨菜「波流ちゃんは何でそんなに手際がいいの!引っ越したこともそんなないはずなのに!」


波流「さあ?才能?」


梨菜「む、頭にくるやつだ!」


波流「あはは、冗談。多分美月ちゃんのおかげじゃない?」


梨菜「美月ちゃん?」


波流「うん。部活で話してる時も、その他の時も順序立てて話してる気がする。」


梨菜「分かる気がする。てきぱきしてるよね。」


波流「お家の手伝いで鍛えられたのかも。」


梨菜「ああ、お寺だっけ?」


波流「そうそう。行事多いしさ。」


梨菜「一緒にいる人の影響は大きいよねー。」


波流「何にやにやしながらこっち見てるの。」


梨菜「んー、別に?」


波流「なっ…このこのぅ。」


頬を手のひらでぐりぐりと

混ぜるように動かしてくる。

口元が分裂しそうな思いをしながら

抵抗しようと声を出すと、

ぐにゃぐにゃした音が漏れた。


波流「あっははっ。」


そう笑いながら波流ちゃんは

私の頬から手を離す。


こうしてみると、

あの別の世界線にいた5日間なんて

なかったみたいに生活をしている。

何もなかったみたい。

星李は亡くなっていなくて、

私と波流ちゃんが喧嘩していなかった

あの世界線みたいだなとも思う。


そして、波流ちゃんはまた

棚の方へと向かっていた。


波流「まあでも、実際私も梨菜に影響されたところはあるだろうなぁ。」


梨菜「そうかな?」


波流「遅刻癖とか。」


梨菜「いいや、波流ちゃんはまだまだだよ。」


波流「その域には達してないって?」


梨菜「うむ。」


波流「師匠には頭が上がりません。」


梨菜「乗り越えちゃいけない壁として存在し続けようではないか。」


波流「一生その壁登らないようにしよっと。」


梨菜「背を追いかけてきなさい。」


波流「遅刻魔の背をってなるとやだなぁ…。」


そう言いながら、波流ちゃんは手を止めた。

ひとつの棚が空っぽになっているのを見て

一度頷いていた。

一区切りといったところだろう。

ほとんど休憩していたも同然の

私の隣へとひょいと腰掛けた。


波流「はー…少し休憩。」


梨菜「げ…まだやるの?」


波流「引っ越しまで後がないでしょ?」


梨菜「うえー…。」


波流「隣のこの教科書類を片したら今日は終わりにしよう。」


梨菜「はあい…。あ、そうだ。」


波流「ん?」


梨菜「話戻っちゃうんだけど、美月ちゃんのことでさ。」


波流「…?うん。」


梨菜「その、今も血がどうこうの話は続いてるの?」


波流「あー…食事ね。今でも続いてるよ。だから、ほら。」


波流ちゃんはそう言いながら

人差し指の腹を見せてくれた。

そこには治りかけの傷がひとつ。

何度か同じ場所を傷つけているのか、

少しだけぼこっとしている気がする。


そっと触れようとしたけれど、

痛いかもしれないと思って

伸ばしかけた手を戻した。

それを見て特に何も思わなかったのか、

彼女は自分の指を見ながら口を開いた。


波流「半年以上ここしか使ってないからか、だんだん皮膚が厚くなってきたみたい。」


梨菜「痛くないの?」


波流「やるとやるほど痛みと血が出る量が少なくなってる。」


梨菜「ええ…そんな怖いことさらっと言わないでよ。」


波流「美月ちゃんとしては足りてるのか不安になるけどね。」


梨菜「頻度や量は少なくなってるの?」


波流「うーん、5、6月と比べると少ないけど、秋ぐらいからは今までは一定してるかな。これ以上少なくするのは無理かもねって話してる。」


梨菜「そっかぁ…。」


波流「この1年でまだ残ってる問題は、このことだけじゃないと思うよ。」


梨菜「…だよね。私も思ってた。」


1度座り直してから、

去年から今日までのことを

うんうんと唸りながら思い出す。

4月から今日まで

あっという間すぎた。

そして、いろいろなことが起こりすぎた。


梨菜「だって、宝探しをそもそも誰がしたのかがわかってない。」


波流「理由や方法もね。あの時Twitterが全部変わったし。」


梨菜「そうだよ!あと、愛咲ちゃんの神隠しとか。」


波流「確かに。結局誰にされたとか、どこにいたとかは聞いてないもんね。」


梨菜「それから、波流ちゃんと美月ちゃんの食事の問題でしょ?」


波流「うん。嶺さんたちが海底に行ったみたいなことも言ってた気がする。」


梨菜「それも変な話だよね。うーん…他に?」


波流「夏だと…あ、そうだ。美月ちゃんから聞いた話があってさ。」


梨菜「なになに?」


波流「三門先輩と仲直りするきっかけになったのが、マンションの一室に呼ばれたことらしくて。そこで1週間くらいは過ごしたのに、実際は1時間くらいしかすぎてなかったんだって。」


梨菜「…ん?…あー…玉手箱みたいで怖いね…。」


1時間と聞いて

ふと思い当たる節がありそうだったけれど、

その場でふわっと姿を消してしまった。


波流「花奏ちゃんの昔のことを暴露したあのアカウント…名前は忘れたけど、あれもおかしなことのひとつだったのかな。」


梨菜「それは私たちのアカウントが変わって、本名が出たから…。」


本名をTwitterで公開していたから。

だから花奏ちゃんは

あの攻撃的な人に見つけられて

過去のことを暴露された?

…それなら、星李はどうなるのか。

思考が停止しそうになった時、

波流ちゃんが口を開いてくれたおかげで

ショートせずに済んだ。


波流「あれだよ。トンネルの奥も全部そうじゃん。」


梨菜「あー…だよねぇ。あれから何回かトンネルに行ってるけど、お屋敷の欠片もないもん。」


波流「そうなんだ…。」


梨菜「結局れいちゃんの本体って言えばいいのかな、それの出所もわからない。」


波流「…。」


梨菜「タイムマシンもそう。」


波流「思えば多すぎない?まだわかんないところ。」


梨菜「まだまだあるよ。真帆路ちゃんが帰ってきたことも、私が別の世界線に飛んだこともそう。」


波流「うわ、今年1年全てが謎だよ。」


梨菜「でも、全体的に言えるのは、手法と理由がわからないこと。」


波流「手法と理由?」


梨菜「うん。理由は…私たちを親密にさせるとか…もしかしたら苦しめるなんてこともあるかもだけど…何となく見えてきそうじゃん。」


波流「そうかな…?」


梨菜「でも手法が一切わからない。タイムマシンとかいい例だよね。」


波流「…確かに。」


梨菜「宝探しの紙に何か載ってるのかな。」


波流「見てみる?」


梨菜「写真ある?」


波流「うん、とってあるよ。」


よっこらせと立ち上がっては、

近くに放ってあったスマホを手に取り

また近くまで戻ってきていた。

すぐに腰を下ろしては

写真アプリをスクロールしている。

そして、ずらずらと並んだものの

一部に見覚えのあるものがあった。


波流「あ、この辺だ。」


そう言って見せてくれたのは、

色褪せた紙の写されたものだった。

近くにあった紙とペンをとり、

咄嗟にそこに書き連ねた。




4月10日

仏の顔も三度まで


4月13日

溺れる1番線

戻っておいで

住所の記された紙

曲は夢の在処

大元を断て

繋ぐ公衆電話

青が現実


4月14日

私を助けて

354528713964876

幸せに沈まぬように

思い出と共に見つけて

1時間の隠れ家


4月17日

過去と向き合え

2年前からかくれんぼ

354509913964482

伝わなければ真実ではない

母の面影を追って

伊勢谷真帆路は生きている

海底の蕾

3で取り消し

霊を見放せ


4月19日

354473613964328

花は不幸の量と比例

任務を忘れるな

缶コーヒーを届けて

橋を渡るな

幼き私と共に描いて

再度咲いても触れないで

窓の外に溶けぬよう開かず眺めて

5の間に帰りたいと祈りを捧げた日


4月24日

記憶は土の中

彼女が全てを導く

廃れても会おう

糸なら解いて

話を聞いて

別の未来なら変えられる


4月27日

物語の4つ目を探せ

嶋原梨菜の所有物




紙に書き出してふと思う。

1番最後の内容を

人差し指の腹で優しく抑えた。


梨菜「結局私の所有物って何だったんだろう。」


波流「1番最後に出てきたやつだね。」


梨菜「うん。ちゃんとまだ持ってるけど。」


波流「あ、持ってるんだ。」


梨菜「捨てるわけにもいかないしさ。」


今でも思い出せる。

金属の目の細かい鎖の先に1つ小さな飾り。

ぱっと見てすぐの感想は

子供が頑張って作ったアクセサリー。

もしもこれが星李や波流ちゃんの

作ってくれたものなら

勿論大事に持ち歩いただろうなんて

思っていたことすら

鮮明に頭の中に残っている。


奇妙なブレスレットに近しいものには

ピンクでハートを象った紙の上に

四つ葉のクローバーが乗せてあり、

それ全体を透明な液体でコーティングして

固めたような飾りがあった。

爪ほどの小さい飾りのため、

目を凝らして見ないとピンクのハートの紙や

クローバーは認識しづらい。

たったそれだけの飾りだというのに、

今日に至るまでこんなにも覚えている。


梨菜「仏の顔も3度までと、溺れる1番線はもうすんだことにして。」


波流「物語の4つ目を探せも終わってるんじゃない?あと、伊勢谷さんが生きてるっていうのも。」


梨菜「そうだね。数字も消していいんじゃなかった?ほら、最後の宝箱の座標だったはず。」


波流「あとは1時間の隠れ家もじゃん。」


梨菜「この住所ももう終わったことだね。」


波流「え、そうなの?何かあったっけ。」


梨菜「うん。ここにタイムマシンがあったんだ。」


波流「そのさ、タイムマシンの話、私はよくわかってないんだよね。誰が関わってたの?」


梨菜「花奏ちゃん。」


波流「…あぁ…そうなんだ。」


梨菜「もう過ぎたことだし、掘り返すことでもないけど…これも大きな傷だよね。」


波流「…だね。」


梨菜「他は…海底の蕾は?愛咲ちゃんのやつじゃない?」


波流「それっぽい。けど、ひとつの不可解につきいくつも出ることあるの?」


梨菜「うーん…最初の宝探しについては結構あった気がする。ほら、数字とか。」


波流「もし不可解ひとつにつきひとつのメッセージだったら嫌だね。」


梨菜「…メッセージ…ヒントなんだろうなぁ。」


波流「本当にこれを企てた人の目的がわからない。」


梨菜「私たちを出会わせるためじゃない?」


波流「出会わせるだけだったらこんなことしなくても一番最初の宝探しだけでいいじゃん。」


梨菜「…じゃあ、出会わせた先に何か目的があったんだよ。きっと。」


波流「なんか大人びてるね。」


梨菜「えへへ。もっと言ってくれても」


波流「あ、5の間に帰りたいと祈りを捧げた日ってつい最近の梨菜のことじゃない?」


梨菜「うわ、話逸らした!」


波流「あ、でも、戻っておいでもそう言えるか。」


梨菜「おーい、波流ちゃーん。」


波流「私を助けてなんていつ何時でもみんな思ってたし…。」


梨菜「え、私の存在まで消しちゃった?」


波流「あはは、冗談冗談。」


波流ちゃんは笑いながら

いつだかと同じように

肘で軽く小突いてきた。

あ、あれだ。

別の世界線へと行ったときだっけ。

こうして仲良く話しながら

肘で小突かれて笑い合うの。


それからとりあえず

もう済んだ出来事である

可能性のありそうな物を退けていった。

また紙の上を眺め続けた。

こんなことをしているから

片付けが進まないんだって

怒る人はもういなかった。




・済んでいそう

仏の顔も三度まで

物語の4つ目を探せ

嶋原梨菜の所有物

大元を断て

溺れる1番線

海底の蕾

住所の記された紙

1時間の隠れ家

霊を見放せ

伊勢谷真帆路は生きている

5の間に帰りたいと祈りを捧げた日

354528713964876

354509913964482

354473613964328



・どれでもありそう

戻っておいで

私を助けて

幸せに沈まぬように

過去と向き合え

伝わなければ真実ではない

話を聞いて

別の未来なら変えられる

彼女が全てを導く



・覚えはない

曲は夢の在処

繋ぐ公衆電話

青が現実

思い出と共に見つけて

2年前からかくれんぼ

母の面影を追って

3で取り消し

花は不幸の量と比例

任務を忘れるな

缶コーヒーを届けて

橋を渡るな

幼き私と共に描いて

再度咲いても触れないで

窓の外に溶けぬよう開かず眺めて

記憶は土の中

廃れても会おう

糸なら解いて




3分類して改めて見てみても、

あっている確証は全くない。

それに、美月ちゃんと波流ちゃんの

経験したことが大元を断て、

トンネルの奥での出来事を

霊を見放せじゃないかという話になった。


波流「全然わからないね。」


梨菜「公衆電話も缶コーヒーも何にも覚えがないや。」


波流「もしかしたら他の誰かが覚えがあるのかも。」


梨菜「じゃなきゃ、余ったのは何って感じだもんね。」


波流「うーん…梨菜はさ、別の世界線を見たじゃん?」


梨菜「うん。」


波流「そんな感じで、私たちの歩んだ中でもいくつも分かれ道があって、その先で使う可能性があったものとか?」


梨菜「うわ、ありそう。私が思ってたのは、これから先も私たちが巻き込まれるか、別の人たちがこれを受け継いで…みたいな。」


波流「どれも嫌だね。」


梨菜「青が現実とは、何を言ってるんだか。」


波流「青といえば海とか空?」


梨菜「私はBとか2のイメージだったな。1やAって自然と赤ってイメージあるし。」


波流「確かに。案外ブルーベリーだったりして。」


梨菜「それが現実ってもうわけわからないよ…。」


あはは、なんて隣では

笑い声が聞こえてきたけれど、

私の意識はそちらに向くことはなかった。


たったひとつのメッセージに

釘つげになっていたのだ。

宝箱を開いて見つけた時からか、

それとも星李を亡くした今だからこそなのか。

それは私にしかわからないはずなのに、

私にも分かりそうになかった。


「別の未来なら変えられる」


別の未来が何を指すのかわからず、

私の思い描いているものでは

ないのかもしれない。

それでも。


梨菜「ん、決めた。」


波流「何を?今日の晩ご飯?」


梨菜「ぶー。」


波流「えー、なになに?」


梨菜「将来やりたいこと。」


波流「何したいか知りたいなー。」


梨菜「内緒!」


波流「あー、もったいぶらないで教えてよー。」


梨菜「えへへ、いつかねー!」


波流ちゃんは私に

のしかかろうとしてくるけれど、

それを華麗に交わして

リビングの方まで走って行った。


あぁ。

あの日とは、星李に背を向けたあの日とは

真逆の進み方をしている。


ただいま。

何故かそう口にしたくなった。







行方知らず 終

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