ブー子だってさ!

LeeArgent

ブー子だってさ!

 ブー子!

 ブー子!

 ブー子だってさ!


「嫌になっちゃう!」


 私は、昼間に言われた悪口を思い出して、忌々しい思いで夕飯を見つめる。

 今日の夕飯は、私の好物のトンカツだ。お母さんが作るトンカツはいつだって美味しいはずなのに、今日は喉を通らない。


「早く食べちゃいなさい」


 お母さんはそう言って、一切れのトンカツを口に運ぶ。お父さんも黙々と食べ進めて、お皿にはほとんど残っていない。

 私のお皿には、まだ半分残ってる。


「食いしん坊のお前が珍しいな」


「だって!」


 私は確かにぽっちゃり体型だし、運動嫌いに食いしん坊が災いして、痩せる気配は全くないし。

 だからといってさ。


「豚呼ばわりは酷くない?」


 私をブー子だなんていってきたのは、年が離れたお姉ちゃん。お姉ちゃんはとっくに成人、独立して、一人暮らししている。

 そんなお姉ちゃんから、昼間電話で小言を言われたんだ。今のうちに痩せないと痛い目をみるよって。


 お父さんはため息をついた。

 その隣でお母さんは私をじっと見つめてる。


「豚の脂肪って、どこだかわかる?」


「へ?」


 いきなり聞かれて、私は首を傾げる。

 お母さんは、お皿に残っていたトンカツの一切れを見せた。衣を箸で剥がしていく。

 中から出てきたのは脂身。


「豚の脂肪って、これなのよ。いつも幸が食べてるのは、豚の筋肉」


「え? まじで」


「豚はね、あんな見た目だけど、ほとんど筋肉なのよ」


 丸々した豚を思い出して、私は「うそぉ」って呟いた。じゃあ、私は豚じゃなくて何なんですか。


「幸、身長があるとはいえ、流石に体重三桁は心配だ。そろそろ痩せることを考えなさい」


 お父さんにまで言われる始末。


 私だって、痩せられるなら痩せたいし。

 お母さんのご飯が美味しいのが悪いんだ。


「今夜から、父さんとジョギングするか?」


 お父さんの顔を恐る恐る見る。

 お父さんの顔は優しかった。


「今度、新しいジャージ買ってやるから。一緒に走ろう」


「……わかった」


 お姉ちゃんめ、今に見てろ。すぐに綺麗に痩せてやるんだから!


(^0_0^)


『ブー子だってさ!』

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