勇者パーティー戦士、日本に転移する

ヘイ

第1話 出会い

「行くぞ、お前ら……!」

 

 魔王城最奥。

 扉、と言って良いのか。

 時空間は歪み、その向こう側は見えない。ここに飛び込めば国家を、世界を脅かす敵との最後の戦いが幕を開ける。

 

「はい!」

「おうッ」

 

 魔王に挑むは三人。

 勇者、聖女、戦士。

 世界の安寧を取り戻す為に三人は魔王が居るであろう扉に飛び込んだ。

 

「ぐ……っ、何だこの魔力……!」

「大丈夫か……うぉおおおっっ!」

 

 戦士の野太い声が響く。

 

「ガーランドッ!」

「オレは良い! ルクス! アンタは聖女様を見失うな! ただの戦士よりも、アンタらが生き残る方が重要だ! それに聖女と勇者後からは魔王討伐に必要だが、オレは」

 

 途端にガーランドの声が消えた。

 

「ガーランドッ! ガーランドォオ!!」

 

 戦士ガーランドは魔王討伐前に二人の前から姿を消したのだ。聖女を抱きとめた、勇者ルクスの悲痛の叫びに応える声はない。

 

 

 

 

 

 

 ────ああは言ったが、矢張り。

 

 何処とも知らぬ深い闇の中に堕ちていくガーランドは後悔を覚えていた。

 今更と言う話でありながら、もう決めたのだと言い聞かせておきながら女々しい話。魔王を倒す事への協力も、聖女と会う事も出来なくなる。

 

 ────結局、オレは。

 

 諦められなかったのだ、と。

 聖女になった彼女に追い縋ろうとして戦士などと言うものになり、最強の名を手にした。

 

「何だ、アレは……あの、光は」

 

 深い闇の終わり。

 光明が見えた。水の中を進む様に遅々とした動きでありながらも、光を目指す。光に身体が出た瞬間に先程までの不自由がなくなり重力に従い、ガーランドの身体が落下する。

 

Ni、ninzな、何だ……kakaここ?」

 

 数回の瞬き。

 狭い室内。生活感の溢れる空間。箱の様な物が多く置かれている。

 

「──誰だ、アンタ……?」

 

 目の前から聞こえた声にガーランドが顔を上げる。

 

「……?」

「なあって、おい」

 

 黒い髪に、黒い目。

 男の右腕がガーランドに伸びる。

 

Alo na nimio vi オレの名は Garlandガーランド!」

 

 瞬間、ガーランドは素早く立ち上がり、戦士としての名乗りを上げ、腰に穿いていた剣に手を掛ける。

 

「お、おおっ……なんだよ、落ち着けよ」

 

 彼はガーランドの前に右掌を突き出す。ガーランドはさらに警戒を強める。男の特徴は魔族と一致している。人間の様な姿形をしていて黒い髪に黒い目。太陽に嫌われたかの様な白い肌。

 

「って、分からないか? 言語も違う感じ……だもんな。てか、何語だよ。俺がギリ分かるの英語だぞ。英語じゃねぇんだよな。はあ、俺は言語学者じゃねぇっての」

 

 お互いに意思疎通は取れていない。

 ガーランドは目の前の男が襲いかかってこない事を不審に思いながらも警戒を解かない。男の方も事情を知らぬまま、どうこうしようと言うつもりもない。

 

「アンタ、家あるか?」

「…………」

 

 話が通じない。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 そう言って彼は近くから適当なノートブックとボールペンを手に取って白紙のページに一つの家とそこに向かう人の絵を描く。

 

「えーと、これがアンタだ」

 

 騎士と絵の中の人をペンで指す。

 

「それでここがアンタの家とする」

 

 次に家をペンで示す。

 人と家の間でペンを移動させる。

 

 ────これは……つまり。

 

 ガーランドも察しは悪くない方だ。

 絵も大体理解できる。絵に著された人物は家に帰る途中を表している事。それが自身と結び付けられている事。つまりは家があるかどうかを尋ねているのではないか。

 言葉が通じないなりに意思疎通を図ろうとしているのなら。

 

「…………」

 

 肩の力を抜いても良いのかもしれない。

 ガーランドは脱力し、首を縦に振りかけて止まる。家は、帰るべき場所はあるはずだ。だが、この部屋の中にある品々にガーランドは覚えがない。

 勇者と聖女と共に国々を巡り歩いたが、ついぞこの様な物を目にした事は無かったのだ。

 

Wi kakaここは……?」

「無いのか……?」

 

 微妙な所だ。

 ガーランドは眉根を顰める。

 

「いや、わかった。分からないんだな」

 

 彼はククと笑う。

 

「流石にその顔を見りゃあな」

 

 さて。

 彼は考える。

 目の前の戦士然としたこの男をどうするか。警察に突き出すとして、だ。今日は既に遅い。

 

「明日、警察に行くか」

「…………?」

 

 途端に甲高い音が鳴り、ガーランドは肩をビクリと震わせる。

 

「待て待て待て!」

 

 眉間に皺を寄せたガーランドの肩を押さえてから彼は玄関に向かう。

 

「はいはーい……」

「こちら、出前のピザです」

「ありがとうございます」

 

 料金は既に支払い済み。

 ピザを持って部屋に戻ってくる。

 

「ほら、一緒に食うか?」

 

 箱を持ち上げて尋ねる。

 

 ────彼は、善き人だ。

 

 そしてまた一つ、思い出す。

 

Alo vi Garlandオレはガーランド. Wi init貴方は?」

「ん?」

 

 伝わらない。

 ガーランドは先程、彼の使っていたノートに新たに書き込む。自身の名前を。

 

「Garland」

「ガー、ランド……か? そういや、さっきも言ってた気がすんな。じゃあ、俺も名乗った方が良いか」

 

 ピザの箱を開き。

 

「俺は高森たかもり光輝こうき

 

 新しいページに書き出そうとして光輝は右手を一瞬止める。慣れた様に漢字で書こうとしたが、平仮名に書き直す。

 

「これで『たかもりこうき』だ」

「たか……もり」

「こうき」

「こー、き」

「お互い名前分かったんならピザ食おうぜ。アンタも腹減ってないか?」

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者パーティー戦士、日本に転移する ヘイ @Hei767

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ