【中編】夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。

みっちゃん

夏休み

8月1日① 夏休み、隣の席の女の子と出会いました。

『俺の隣の席はいつも空いている。』



高校に通い始めて、4ヶ月が経過し同級生たちは高校生活に慣れを感じ始めているような気がする。


そんな俺も高校生活に慣れてきたかなと思っていた矢先、課外授業たるものが夏休みにあると知った時には一人家で絶望したが、今日はついに課外授業、最終日。


一番後ろの端から2番目の席で俺は机に肘を付き、外を眺めながら板書をすることなく、ただ授業が終わるときを今か今かと待っていた。


『隣の席の人、ついに前期全部来なかったな。』


視界に映るこの教室の中で唯一誰も居ない席を眺めて俺はそう思った。


しばらく眺めていると瞼が重くなってきた。

外の夏を感じるような蝉の鳴き声と、授業をする先生の声、時折吹いて来る涼しいような熱いような風は俺を眠りに誘うためには十分すぎた。









――――どれくらい眠っただろうか。

目を瞑ったまま、耳を澄ましてみるとまだ、授業をする先生の声が聞こえる。

前に掛かっている時計で時間を確認するため、俺はゆっくりと目を開けると、




「おはよ。」



俺の左側。

これまで空席だった俺の隣の席には、座って小声で小さく手を振っている女子がいた。

俺はその子に軽く頭を下げ、寝ぼけまなこを擦りながら時計を確認する。


12:00。


あと5分か。

なが・い・・な。




「はい!?」




咄嗟に出た声を封じ込めるように口を手で押さえる。

俺はだんだん意識がはっきりしてきて、今見た物が夢なのか確認するためにもう一度隣の席の方に目を向ける。


そこにはやはり制服姿の女の子が座っていて、また俺に笑顔で手を振っている。

肩のあたりで少し外に跳ねた黒く艶やかな髪が、後ろから吹く風に靡き彼女の可愛さをより一層際立たせる。


俺は一瞬見とれてしまっていたが、ふと我に返り今度は自分の頬を引っ張ってみる。

―――――痛い。


「夢じゃないよ。」


隣の席の彼女は俺の行動を見てか、そう言ってくる。

俺は咄嗟に自己紹介をする。


「は、初めまして。九重ここのえ 大地だいちって言います。」

「私はここの席の安達あだち和奏わかなだよ。よろしくね、大地君っ。」


急に可愛い女の子に下の名前で呼ばれるとドキッとしてしまう。


「よ、よろしく。安達さん。」

「和奏で良いよ。」

「よろしく。わ、和奏、さん。」


俺は照れながらも彼女の名前を呼ぶと、彼女は大きく笑顔でうんうんと頷いた。


そんな会話をしていると先生が、


「お~い、九重。何、、言ってんだ。まだ授業終わってないぞ。」

「はい。すみません。」


そんな俺を見て、彼女はクスクスと笑っていた。








授業が終わり、同級生たちがぞろぞろと帰って行く中、俺は彼女に話しかける。


「和奏さんのせいで俺だけ怒られたじゃないか。君も怒られればよかったのに。」

「私は怒られないよ。」

「どうして?」

「それはね……」


彼女は席から立ちあがり、俺の方を向いて、壁に寄りかかった。

そうして、風に靡く髪を右手で右耳に掛けながら


「私、だもん。」


そう言った彼女は笑った。


「オバケ?」

「そう、オバケ。」

「和奏さんもそんな冗談言うんだね。」

「冗談なんかじゃないよ。」


俺が彼女のそんな言葉を笑って返すと、彼女は俺とは対照的に真剣な目でそう言った。


「確かめてみる?」


彼女は右手を俺に向かって差し出してくる。

俺はその手を握ろうと自分の右手を差し出すが、その手は彼女に触れることなく空を切った。


「ほらね。言ったでしょ。」


見えているのに触れられない不思議な感覚。

まるでVRでも見させられているような感じだ。


「私、こうやって机とか、椅子とか物には触れるんだけど、人には触れないんだ。多分、私の姿が見えてるのも大地だけ。」


彼女はどこか寂しそうにそう言った後、


「だからさ、私と友達になってくれない?」


顔と顔が拳1つ分ぐらいの距離まで突然近づいて来た。この子には距離感という概念は無いのか、と思ったけど触れられないならそんな概念無いか。と自己完結した。


たとえお化けであっても、こんな可愛い子に頼まれたら断れるはずもなく俺は二つ返事でOKをした。


「やったー!!初めて友達出来た〜!」


と教室中をはしゃぎ回っている和奏を俺は微笑んで眺めていた。


傍から見たら気持ち悪いヤツと思われるだろうなとは考えないようにした。



「じゃあ、俺は帰るから。和奏さんも早く帰りなよ。」


そう言って俺は鞄を持ち上げて、帰ろうと開いている教室の扉を潜ろうとしたとき、勢いよく扉が閉まった。


「待ってよ。」


見る人によっては怪奇現象だが、俺はそれが和奏の仕業だと見えるのですぐに分かる。


「どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。せっかく友達になったんだから、友達っぽいことしないと!」

「友達っぽいこと?俺、一人も友達いないから分かんないよ。」

「大丈夫!私に付いて来て。」


そう言って彼女は手招きをして、俺の前を歩いて行った。

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