自分の欲望に忠実な可愛い先輩に振り回される後輩の話
秦 結希
第1話
俺には2つ上の兄貴がいる。俺と兄貴は仲が良く、高校生になった今でも一緒にゲームをしたりするぐらいには仲がいい。そんな兄貴には数年前までは仲の良かった幼なじみがいる。2人は別々の高校に通うようになり、それ以来あまり話さなくなったらしい。ならなぜ兄貴の幼なじみの話を出したのか、それはその人が俺の入っている部活の先輩だからである。それだけならどうということはないのだが…家が隣という理由で何も用がないのに家に来たりするすごくめんどくさくて可愛い先輩なのである。これはそんな先輩に気に入られ可愛がられる後輩のお話。
暖かくも寒くもないとある休日のことである。俺が家でゴロゴロしていたら家のインターホンがなった。親の荷物か兄貴の荷物か何かだろうと思いながら適当に返事をしてドアを開ける。「はいはい、今開けますよー。」
「やっほー、後輩くん。
その言葉を聞き終える前に俺は玄関の扉を勢いよく閉める。
「ちょっ!?なんで閉めるのさ!」
今玄関の前に立って話しかけてきたこの人は俺の兄貴の幼なじみで、俺の通っている高校の2つ上の先輩だ。俺と兄貴は別の高校に通っているため兄貴の幼なじみではあるんだが、高校が別になってからは俺の方が会う頻度が多い。
「元気かと聞かれれば俺は元気って答えますが…。で、何の連絡もなしにいきなり
俺は頭をポリポリとかきながらそう言い放つ。
それを聞いた先輩が溜息をつきながら言う。「つれないなぁ後輩くん。私が
「分かってますよ先輩。それ以上は言わなくていいです。では、お入りください。」うんうん、と頷きながら俺は扉を開ける。
「うんうん。物分りがいい後輩で助かるよ。おじゃましまーす。」 そうして部屋に入ろうとする先輩に俺はドヤ顔で言う。
「クーちゃんに会いに来たんですよね?好きなだけもふもふしてもらって構いませんよ。」
クーちゃんは可愛いからね。それなら仕方ない。ちなみにクーちゃんとはうちで飼っている猫のことである。
ニコニコしながら猫の方に案内する俺のことを、先輩がものすごい握力で捕まえる。「あの、痛いです、
「違うよね?分かってやってるよね。私が会いに来たのは
それを聞いて焦った俺は先輩の拘束を強引に振り切り即座に土下座する。
「すいませんでした。もうしないので吸うのだけは勘弁してください。前に1回吸われた時、跡残って大変だったんですからね…。家族にバレないようにするためにどれだけ俺が苦労したか…」
実は前に俺が先輩をからかった時に、怒った先輩が俺の首筋にキスマを付けていたのだ。それを隠すのがめんどくさかったが故に、吸うのだけは止めてもらえるよう、俺は上目遣いでお願いする。
しかしそんな俺の願いは虚しくも拒否される。
「ダメです、許さないよ。冬雪(ふゆき)は年上をからかいすぎなんだよ。前回から反省してないみたいだし…前は1箇所だけだったけど今回は初犯じゃないから2箇所にしよっかな。」
そう言いながら先輩は悪いことを企んでいる時の顔でニヤっと笑う。そして先輩は俺を抱き寄せ首筋に跡を残そうとする。
「痛い!痛いです、先輩。やるにしてもせめてもっと優しく…。」
「ふぁまんひなひゃい(我慢しなさい)。…はい、これで1箇所ついたね。ん、次はどこにしよっか…。」
少し悩んだ後、先輩は「2箇所目は二の腕にしよっか」と言った。
俺が腕を差し出す準備をしていると先輩が俺に聞こえるかどうか分からないぐらいの小さい声でボソボソと呟いた。
「私がこうやってキスマを付けたりするのは君が他の
そう呟きながらチラッとこちらを見てくる先輩の顔は正直すごく可愛かった。俺は昔から先輩と遊んだりして仲が良かったからか高校に入ってすぐ、先輩から告白されていた。初めはいつもの冗談だろうと流していたが一向に先輩は引かず、俺に告白し続けた。何度か俺も応えようと思っていたが少し面倒な事情があって俺はその告白に応えられずにいた。こちらを見る先輩が可愛くて我慢できなくなった俺は思わず口を開いてしまう。
「…俺だって
そんな俺の嘆きを聞いた先輩はキョトンとしながら
「…久しぶりに
「あれ?あれれ、数日前と言ってることが違いますゾ後輩くん。」先輩はヲタクみたいな喋り方で俺を煽ってくる。
急に恥ずかしくなってきた俺は消え入りそうな声で言う。
「それは、その、照れ隠しってやつです。別に俺は先輩のことが嫌いじゃないですし、むしろ好きです…し。」
そこで1度言葉を切り先輩には聞こえないように小さな声で呟く。
「いつか俺から告白しなおそうと思ってたのにどうしてくれるんですか。」
それだけ言って俺は声量を元に戻し、
「…ってかあれだけのことされて好きにならない人なんています!?顔面がハダカデバネズミとかなら分かりますけど先輩は可愛いんですからこれで落ちない男はいないですよ!たぶん。」
それを聞いた先輩が嬉しそうに
「そんなに褒めたってキスぐらいしか出ないぞ
と語尾にハートが付いてそうな言葉を言ってきた。
そして俺はそんな言葉を余所に少し頭を悩ませる。
校則を無視して先輩と付き合うのはまぁよしとしよう。だが付き合うとなると先輩は必ず暴走する気がする。今までは我慢していた欲望を、先輩は絶対に我慢せず叶えようとしてくる。どうする、考えろ俺…!自分の身のためにも何か、何か案を―――――
そうして考えついた先の俺の答えは
「分かりました。俺は、先輩のこと好きです。付き合ってください。いや、なんなら今すぐにでも結婚もしてください!」そう、考えすぎて頭がパンクした挙句先輩の欲望に火をつける様なことをしてしまったのだ。
そんな俺を先輩は優しく、そして嬉しそうに見つめながら
「録音したいからもう1回同じのをお願い!君が逃げられないようにするために…ほら、はやくはやく。」と俺を急かす。なにか物騒なことが聞こえた気がして俺は働かない頭をどうにかして働かせる。そして俺は録音するためのスマホを持った先輩を前に、なんとか平静を取り戻し自らの意思を告げるために先輩の目を見て話始める。
「先輩、好きです。初めはスキンシップが多すぎる兄貴の幼なじみって感じで別に好きではなかったです。むしろめんどくさいなと思ってました。でもいつの日か先輩が他の男と話してるのを見るとなんだか胸が痛くって、それで俺は先輩のことが好きなことに気づきました。伝えるのが遅くなってごめんなさい、
そうして俺はなんとか先輩に自分の気持ちを伝えることが出来た。最後の方は緊張と申し訳なさの涙で前が見えなくなっていたが…。
俺の告白を聞き、録音し終えた先輩は満足そうに微笑む。
「私も
分かってはいたが付き合って早々、
「まぁ、いいですけど俺、今涙で顔ぐちょぐちょなんで少しだけ待っててもらっていいですか。顔拭いてくるんで。」
そう言って俺は1度部屋を出る。そうして俺は鏡で、さっき付けられたキスマと涙で濡れた自分の顔を見て苦笑する。タオルで顔を拭いて部屋に戻る。
「おかえり
俺はそこに座りながら先輩を膝に乗せる。そして先輩を抱き寄せて耳元で何度も自分の想いを囁く。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます