【KAC】かわいい男の子とカッコいい女の子がイチャイチャするだけの話

譚月遊生季

かわいい男の子×カッコいい女の子

 彼女の腹筋はよく鍛えられている。

 ひょろひょろの僕とは違い、体幹もしっかりしているし運度神経も抜群だ。

 何なら身長も僕より高い。イケメンなので、女の子にもよくモテる。僕よりもモテる。


 そんな彼女だが、口癖は「かわいくなりたい」だ。僕の顔を見ながら、頻繁に言ってくる。

 ないものねだり、とはよく言ったもので、本音を言えば僕も彼女みたいにカッコよくなりたい。高身長で筋肉質で運動神経抜群なイケメンになりたい。

 ……でも、それを言うと、彼女は決まってこう言う。


「カッコよくなくていい」


 部屋デート中。テレビのイケメン俳優に彼女が似ていたので、いつもみたいにそういう話になった。

「なんで?」と尋ねたら、いつもと同じようにこう返ってくる。

 

「だって、筋肉ムキムキのイケメンになったら、私になんか見向きもしないだろ。顔が良いんだから、それこそ女の子なんて選び放題だ」


 そう言ってそっぽを向く彼女は、充分かわいいと思う。胸も……まあ、立派だし。僕としてはこの上ないぐらい素敵な女性だ。


「カッコよくなって、隣に並びたい……って、言ったら?」

「イヤだ。私みたいにモテたら、もっとかわいい子見つけてどっかに行くだろ」

「行かないってば……」


 ヤキモチを焼いているのは間違いないけど、それはつまり、僕のポテンシャルを信じているってことでもあるわけで。

 かわいいなぁ、と、今日何度目かの感想が浮かんだ。


「でもさ……。友達に『彼女よりかわいい』とか、 『どっちが彼女か分からない』……って言われるのも、複雑なんだよね」

「……やっぱり、かわいくなりたい……」

「わーっ! ごめん! 今のなし!」


 ずーん、と目に見えて凹んでしまった彼女の背中を撫で、慰める。

 コンプレックスが大きいから、余計にヤキモチも焼いちゃうんだろうな。きっとそうだ。


「僕、腹筋触るの好きだよ!? ずっと触ってたい!」

「ええー……何それ。セクハラ……?」

「慰めたのに!!」


 納得いっていないみたいだから、顔をじっと見て想いを伝える。


「これ以上かわいくならなくていいってば」

「……なんで」

「だって……ほら……もう充分かわいいし……」

「……嘘ばっかり」

「それに……」


 まだ不服そうだから、ぎゅっと手を握る。

 

「僕の前以外で、かわいくなる必要ある?」


 ボーイッシュな顔が、ボンッと赤くなる。

 ……やっぱり、かわいいなぁ。


「……あーあ、もっとカッコ良かったら、今のセリフもビシッと決まるのかなあ」

「これ以上……カッコよくならなくていい……」

「えっ、なんで?」

「心臓に悪いからっ!!!」

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