KAC2023 晩餐

かざみ まゆみ

晩餐

 アキバの片隅にあるパーソナルトレーニングジム。

 ここはボディビル全国大会でトップ3常連の男が運営しており、ジムに通う者たちも、男に教えを請いたいと願う筋肉自慢たちであった。


 そんなジムの奥にある、会員たちを招いてパーティーを行うリビングで、とある会食が行われていた。

 そこでは男たちが食卓を囲んでいる。


 創作系のキャンドルが照らす明かりの下、食卓には沢山の肉料理が並んでいた。

 食卓を囲む男たちは筋肉隆々であった。

 運営の男が口を開く。


「タカシ君、全日本一位おめでとう。最近の君のトレーニングを見ていて、絶対に優勝できると信じていたよ。僕は及ばず二位だったが、君から色々と吸収したいと思ってこの場を設けたのさ。君のお友達のに~くん、だいちゃん、こうちゃんも凄い喜びようだったね」


 男はワインのグラスを持ち上げながら、揚々と話し続ける。


「どうした、いつも煩いぐらいに会話をしているじゃないか。お祝いの席だ存分に楽しんでくれ。今日は豪勢に肉料理尽くしだ!」


 男は一枚のさらに手を伸ばす。


「これはシンタマかな? 赤身だがミディアムレアでなかなか美味しいなぁ。なあ、だいちゃん」

「さて、これはリブロースか。わずかに霜降りが入っていてよく引き締まった肉だな。口の中で脂が溶けて旨い。こうちゃん、最高だな」

「おう、これはニノウデか! 流石に筋肉質で引き締まって噛みごたえがあるな。にーくん、なにか感想はないか?」


 返事はなく、食卓は静まり返っている。

 男が使う食器の音と咀嚼音だけが部屋に響いている。


「タカシ君、いつもお友達とよく会話をしているのに今日は寡黙だな?」


 男の対面に座るタカシ君はうつむいて微動だにしない。

 その足元には深紅の染みが広がっている。


「君がトレーニングを頑張りすぎるからいけないんだよ……」


 男はナプキンで口を拭うと立ち上がった。


「君の大切な筋肉ともだちは僕がちゃんと食べてあげたからね。これからは僕の血肉となって頑張ってもらうよ」



 注釈:

 シンタマ=タカシ君の大腿四頭筋=愛称だいちゃん

 リブロース=タカシ君の広背筋=愛称こうちゃん

 ニノウデ=タカシ君の上腕二頭筋=愛称にーくん

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