叫ぶ筋肉。これは誰かの未来です。

うり北 うりこ

第1話


 俺たち筋肉には強大な敵がいる。その敵のおかげで毎日が過剰労働だ。


 この体の持ち主である彼女が幼い頃は良かった。赤子の時は負けていたが、ハイハイができるようになったあたりから俺たちは連戦連勝。

 テニス部に所属していた中学、高校も良かった。彼氏のためにキレイでいたいと努力していた20代も良かった。


 それが、あれ? と思い出したのは30代になってから。同じ運動量じゃ奴等は増殖する。なのに、彼女は運動をしなくなった。しかも、無類の甘いもの好きときたもんだ。

 そして、40代になった今──。


「敵襲ー! 敵襲ー!!」

「押し返せ、負けるなっ!」

「くそっ!! また甘いものドカ食いしたなっ」

「むっ無理よ! 敵が多すぎるわ」

「たんぱく質! たんぱく質はどこだ!?」

「そんなものはないわ。だって朝食は菓子パンに砂糖とミルクたっぷりのコーヒーよ。昨日の夜はビールとウィスキーに何故かホットケーキだったわ!!」

「くそぅ、このまま負けるのか?」

「負けたら、今度こそ膝がダメになるわよ!」

「だが、我らのエネルギーがないぞ!!」


 押し寄せる大群に果敢かかんにも挑むが敵は日々膨らむばかり。毎日、毎日、必死に戦ってきたが俺たちは疲労がたまり、過剰労働にそろそろ白旗を上げてしまいそうだ。


「もう、頑張りたくない」

「だが、俺たちが頑張れないと若くして歩けなくなる! 車椅子になるぞ!?」

「でも、食生活を変えてもらわないと敵は増えるばかりよ? 気持ちだけでは勝てないわ」

「くそぅ、何か手はないのか……」


 だが、誰もそれに答える筋肉はいない。みんな分かっているのだ。体の持ち主にしかどうにもできないことを。そして、絶望は終わらない。


「やっやめろ! ポテチだと!?」

「カロリーの大行進じゃないか!」

「終わった。もう、ダメだ」

「みんな、諦めるな! 来るぞっ!!」


 戦いは終わらない。高カロリーによって今日も脂肪は生成され続けるのだ。


 

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