10 はじめての来客
10 はじめての来客
ミライは顔じゅうが赤くなるまで頬ずりしたあと、ハッと我に返る。
無言でミックとロックを宝箱に戻すと、咳払いをひとつした。
「こほん。ありがとう、ミックくんにロックくん。命を2回も助けてもらって、わたしのケガを治して、フライングライダーまで直してくれるなんて。ぜひ、お礼がしたいわ」
「そんな急にお姉さんぶらなくても。それに、お礼なんていいよ」
「ダメだよ。こんなにお世話になって、ハイさよならっていうわけにはいかない。ぜひ、うちに来て!」
「ミライお姉ちゃんのお家ってどこにあるの?」
「アルテッツァ王国の王都だよ」
「ここからだとけっこう遠いね」
「ふふ、まだ子供のミックくんならそうかもね。でもお姉さんのわたしなら、フライングライダーでひっと飛びだよ」
「そうなんだ。でも、どうやって飛び立つつもりなの?」
それまでお姉さんぶっていたミライは「へ?」とマヌケな声をあげる。
「それって、どういうこと? フライングライダーの故障ならミックくんが直してくれたんじゃないの?」
「そうだけど、フライングライダーで飛び立つには滑走するための平地が必要だよね? このあたりは傾斜になってるけど、まわりは森で外側もカルデラみたいに岩山に囲まれてるから、滑走するのは無理なんじゃないかな」
「ええっ!? それじゃあ帰れないよ! なにかいい手はないの!?」
お姉さんらしさはどこへやら、ミライはミックに半泣きですがった。
「下山をすればいいんだよ。といってもここから山を降りるには、洞窟を通る必要があるけど」
「どうくつ……?」
「うん、岩山にある洞窟。そこを通るとカルデラの外に出られるんだ。中にはたぶんモンスターとかがいると思うけど、どうする?」
「ううっ……! お……お願い! ミックくん、わたしをカルデラの外まで連れてって!」
「いいよ。僕もちょうど下山するところだったから」
「あ……ありがとう……ありがとぉぉぉ~~~!」
ミライは感極まって、またミックとロックを抱きしめようとしたが、
「だめっ!」「にゃっ!」
と4本の手で突っぱねられてしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フライングライダーの持ち手であるコントロールバーを「よっこらしょ」持ち上げるミライ。
さっそく洞窟を目指して出発しようとしたが、新たなる問題点に気づいてしまう。
「ああっ、大変!? 翼が大きすぎて、まわりにある木に引っかかっちゃう!? これじゃ運べないよ!?」
「それなら心配いらないよ、ちょっとこっちに来て」
「え、なにをするの?」
「いいから、そのままくるって回って、フライングライダーの先っちょを宝箱の中に突っ込んでみて」
「え? そんなことしてなんの意味が……」
「いいからいいから」「にゃっにゃっ」
ふたりに急かされ、ミライは浮かない顔をしつつも言われた通りにした。
フライングライダーを持ち上げたまま宝箱のほうを向くと、お辞儀するようにしてフライングライダーの先端を宝箱に触れさせる。
すると、しゅるんっ! と音がしそうなほどの勢いで、フライングライダーは宝箱の中に吸い込まれていった。
ひとり取り残されたミライはまたしてもなにが起きたのかわからず、口とポニーテールをアワアワさせている。
いまにも叫び出しそうだったが、なんとか理性のほうが勝ったのか、やがてコホンと咳払いをひとつ。
「も……もう、お姉さんはそんなんじゃ驚かないわ。ミックくんのすることにいちいち驚いてたら、ビックリがいくつあっても足りないから」
ミックが宝箱の中から手を差し伸べてきていたので、ミライはてっきり握手でもするのかと思い、そのもみじのような手を握り閉めると、
「それーっ!」
いたずら笑顔のミックに、宝箱の中に引きずり込まれてしまう。
巨大な掃除機に吸い込まれるような感覚に、思わず目を閉じてしまうミライ。
吸引はすぐに収まったので、おそるおそる目を開けてみる。
するとあたりの風景が急変していたので、開けたばかりの目をぱちぱちさせてしまった。
「えっ? ええっ? ここ、どこ……?」
さっきまで森の中にいたはずなのに、瞬間移動したみたいに小部屋の中にいる。
目の前にはミックが立っていて、「どこでしょー!?」とニコニコ笑っていた。
ミックの腕にはロックが抱っこされていて、「にゃにゃーっ?」と鳴いている。
ふたりのサイズ感に、ミライは違和感を覚えていた。
――あれ? わたしとミックくんの目線の高さが同じ……?
ミックくんって、さっきまでわたしの腰よりも低い身長だったのに……?
ロックくんも、明らかに大きくなってるよね……?
なんで急に、ふたりとも大きくなっちゃったの……?
でも大きくても、すっごくかわいい……!
このままギュッてしたら、全身でミックくんとロックくんを感じられそう……!
急成長したミックの背後には、フライングライダーがデンと置かれていて、翼の下あたりには子供用のリュックサックがポツンとある。
ミライはミックを抱きしめたくてウズウズしていたが、ふと恐ろしい事実に気づいてしまった。
「あっ……!? まさか……ここって……!?」
「そう。そのまさか、宝箱の中だよ」
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ミライはもう驚かないと宣言したのに、思わず後ろでんぐり返しをしてしまうほどに驚愕していた。
コロリン転がった自分の身体がやけに軽かったので、さらなる違和感に気づく。
「あっ……あれ!? わたしの身体、ちっちゃくなってる!? まるで子供みたいに!? えっ、えええっ!?」
「さっき、新しいスキルを取ったんだ。これがあれば、ミライお姉ちゃんも宝箱の中で活動できるよ」
それは、インテリアツリーのスキル『ウエルカムハウス』。
オーナー以外の人間やモンスターなどを、宝箱の中に招き入れることができるスキルである。
その際、身体のサイズを小さくしてくれるというオマケ付き。
これらはもちろんシンラが開発した技術だが、まだ公表すらされていない。
この世界においてはほとんど超常現象だったので、ミライはもはや言葉すらも失っていた。
沈黙を破るように、壁からファンファーレが鳴る。
『「初めての客を招き入れる」ミッション達成! 室内用の家具をひとつ解放できます!』
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