09 はじめてのメンテナンス
09 はじめてのメンテナンス
「う……うそうそうそうそ、うっそぉーーーーっ!? うそでしょ!? あなたみたいな小さな子と猫ちゃんが、あれだけの数のゴブリンを追い払うなんて!? それにエリクサーまで持ってるなんて!? エリクサーはね、一滴で豪邸が買えちゃうくらい高いものなんだよ!? 重傷を負った王様が使うようなものを、こんな軽傷にホイホイつかうなんて……!? ねえ、ウソでしょ!? これって夢だよね!? ねえっ、夢って言って!!」
瞳孔がひらきっぱなしの目で迫ってくるミライ。
その頬を、ミックとロックはつまんでムニーッと伸ばした。
「ほら、夢じゃないでしょ?」「にゃっ」
ふたりの無邪気なイタズラがかわいくて、ミライの顔は思わずほころぶ。
変顔になったミライにミックとロックも思わず吹き出してしまい、顔を見合わせて笑いあった。
すっかり打ち解けた3人は、お互いの顔をムニムニして遊ぶ。
しかしせっかくの楽しい時間は、野暮な鳴き声で打ち切られてしまった。
「ブモォーッ!!」
怒声じみた声の先には一匹のイノシシがいて、荒い鼻息とともに土蹴りをしていた。
それだけでミライは飛び上がりそうになっていたが、ミックは冷静に状況を分析する。
「ああ、どうやらあのイノシシのナワバリみたいだね」
ミライは泡を食ってイノシシに呼びかけた。
「お……落ち着いて、わたしたちは敵じゃないわ! すぐに出ていくから……!」
「言ってもムダだと思うよ。あのイノシシ、完全に頭に血が上ってるみたいだから」
「そんな!? や……やめて、イノシシさんっ!」
ミライは通せんぼをするように宝箱の前に立ったが、イノシシにひと睨みされただけで「ひいっ!?」と畏縮する。
野生の殺意がぎっしりと詰まった眼光は、ミライの身体を動けなくするのにじゅうぶんな恐ろしさがあった。
イノシシが地を蹴ったと同時に、ミライの震えるふとももの間から青色の軌跡が飛び出していく。
それはイノシシの顔面に吸い込まれていくように命中、びしゃっと破裂して顔を青色まみれにしていた。
「あ……あれは……!?」
それがベリーベリーの実だとミライが理解するよりも早く、イノシシの真横の空間から声がする。
『やーい、僕らはこっちだよーっ!』
「ブモォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッ!!」
イノシシは人間の言葉こそわからないものの、挑発されたことだけは理解したようで、声の方角に猪突猛進。
しかしその先にあったのは岩。激昂と目つぶし、ふたつの意味で前が見えなくなったイノシシは全力で激突してしまう。
爆音と震動ともに岩が粉々に砕かれ、破片はミライの足元まで飛んできた。
イノシシも自身の頭をかち割られ、倒れた地響きが続けざまに届く。
それらはほんの一瞬の出来事だったので、ミライは事態が飲み込めず、ポカーンとするばかり。
「な……なに……? いったい……なにが、どうなってるの……?」
背後でファンファーレが鳴ったのでサッと振り向くと、そこにはハイタッチを交わす子供と黒猫の姿が。
「い……いまの、ミックくんがやったの!?」
「うん」「にゃっ」
ミックとロックは同時に胸を張る。
ふたりは今朝からすでに、幾度となくピンチを乗り越えてきた。
そのため、イノシシ程度ではもはや動じることはない。
「な、なんなの、この子たち……!? すごい……すごすぎるよ……!」
ミライはへなへなとへたりこみ、その場にぺたんと座り込んでしまった。
ミライはその反応を気にもとめず、とことこと墜落したフライングライダーのほうに向かって歩いていく。
途中、一瞬だけ宝箱の中に引っ込んだかと思うと、すぐにまたひょっこり顔を出す。
フライングライダーの翼の下に潜り込むと、煙を吹いている金属の箱をしげしげと眺めた。
「……墜落の衝撃で飛行制御装置がオーバーロードしちゃってるみたいだね。ロック、リュックサックの中からドライバーとペンチを取ってきて」
「にゃっ」
ロックが咥えてきた工具を受け取ったミックは、金属の箱についたネジを外しはじめる。
フタを開けてなにやらカチャカチャやりはじめたので、ミライは不思議に思いつつ、ミックのそばに行った。
「ミックくん、なにやってるの?」
「直ったよ」
「えっ、なにが?」
「このフライングライダーだよ。もう飛べるようになったよ」
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ポニーテールが天を衝く。
ミックが新たに取得したスキルは、オーナーツリーにある『機怪修理マスター』。
その名の通り、機怪を修理できるようになるスキルである。
ミックのスキルのなかで、オーナーツリーにあるものはほとんどが前世のシンラが身につけていたもの。
ようするにいまのミックは、転生して失った力を取り戻しているに過ぎない。
シンラは機怪を発明した魔術師なので、機怪修理もお手のもの。
ミックになったことで身体こそ小さくなったものの、スキルさえあれば前世に近いポテンシャルを発揮できるのだ。
とはいえこんな小さな子供が機怪修理をするのは、世界の常識としてはありえない。
非常識を目の当たりにしたミライは、目とポニーテールをグルグル回していた。
「な……なに……? なんなの……? イノシシを簡単にやっつけちゃうだけじゃなくて、フライングライダーまで直しちゃうなんて……!? 機怪修理は専門の魔術師じゃないと無理なのに……!?」
とうとうミライの驚愕は限界突破、頭を押さえて悶絶をはじめる。
「こんなにかわいいのに、強いなんて……! こんなにかわいいのに、すごいなんて……! なんなのこの子……!? なんなのなんなのなんなのっ!? なんなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
興奮のあまりイノシシと化したミライは、ミックとロックに襲い掛かるようにハグした。
「むぎゅーっ!?」「ふにゃーっ!?」
「ああん、もう、我慢できない! かわいいかわいい、すごいすごい! かわいすごいなんて、さいきょーっ!! んもぉーーーーっ!!」
ギュッと抱きしめ、これでもかとふたりに頬ずりしまくるミライ。
「や、やめて!」「うにゃーっ!」
しかし最強のふたりでも、力ではミライに敵わない。
ミックは髪の毛が、ロックは顔の毛がボサボサになるまでスリスリされてしまった。
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