一球入魂
雨月 史
第1話
ドクン ドクン ドクン
場内は沢山の人で埋め尽くされている。
吹奏楽の楽器の音に合わせて多くの手拍子と声援が先程までうるさいくらいに聞こえていたのに、今は自分の心臓の高鳴る音しか聞こえない……。
「これがZONEてやつか……。」
「いや違うで。」
「え??」
。、。、。
高校野球界のモンスタースラッガー
武田との勝負はこれが3回目だ。
1度目は一年の終わりに、監督のツテで練習試合が組まれた。武田はまだ頭角を現していなかったので、全ての打席を得意ツーシームで押さえ込んだ。
ところが2度目の勝負の時。
忘れもしない2年の夏の甲子園の2回戦。
その日は俺は最初からマウンドを任された。ちっとも負ける気がしなかった。
だって俺のツーシームは最強だと信じていたから。毎日毎日、日が暮れるまで投げ込んで、球の握りもなん度も見直して、努力に努力を重ねてきたのだから。
ところが……。
「打ったー!!大きく大きく伸びて…バックスクリーンにあたりました!!武田選手が上杉投手のツーシームをうまく捕らえました!!」
TV中継ではそうアナウンスされ、
彼はそれ以来『モンスタースラッガー』というあだ名をつけられた。その日その事がショックでその後もコテンパンに打たれてマウンドを降りた。チームも惨敗……悔しかった。俺の努力不足だ……と心から反省してした……。
にも関わらず武田は試合後のインタビューでこう言った。
「努力と言うか……僕は筋肉と会話できるんで……。」
何だそりゃ?ふざけてるのか?
努力と言うか筋肉と会話って。
ふざけてる?いやふざけすぎてる!!
そして俺は今まで以上に球を投げ込んで、
球の握りを研究して、手の豆を潰しながら前よりもずっと練習に励んだ。
。。。。。
そして迎えた3回目の勝負。
高校野球夏の大会甲子園決勝。
9回裏二死満塁。
本日の結果最初は俺が三振を取り、
二打席目は武田のツーベースヒット。
三打席目は大きく打ち上げてアウト、
四打席目はファーボールを選んで塁にでた。
今のところは2勝2敗の対だ。
これ以上の舞台は無かった。
セカンドピッチャーが育っておらず、
地方大会から今大会のほとんどを投げていた俺は少し疲れが溜まっていた。
けれどこの勝負だけは負けるわけにいかない。
俺の努力を全ての魂をかけた一球が、
「筋肉と会話」とかいう奴負けてたまるか!
あと一球、これで終わらす!!
。。。。。
場内は沢山の人で埋め尽くされている。
吹奏楽の楽器の音に合わせて多くの手拍子と声援が先程までうるさいくらいに聞こえていたのに、今は自分の心臓の高鳴る音しか聞こえない……。
「これがZONEてやつか……。」
「いや違うで。」
「え??」
「わいや!!わいの力や。」
「誰?」
「見てみ、今時間が止まっとるんや。」
「え?!本当だ、なんなのこれ?」
「わいはなー、筋肉んや。」
「何それ?中山?」
「ちゃうわ!!」
「じゃー『へのつっぱりはいらんですよ』とか言うヒーロー?」
「なんでそんなん知ってんねん?お前いくつや?!!いやそうや無くて……お前筋肉をなんやと思ってんのや?わいらだってなー、
「え?!!えーーーー!!!」
「お前なー筋肉ゆーてもお前の所有物ちゃうねんで、ほら、なんや、ペットみたいなもんやんか、餌も欲しけりゃ散歩もいきたいんじゃ。」
「えー!!、筋肉って散歩するの?!!」
「驚くとこいやそこかい!!ぺットに例えただけやないか!!」
「俺……、どうしてもあいつに勝ちたいんだ。筋肉にストイックにしすぎたのは反省するけど……だから少し力を貸してくれ!!」
「ったく……しゃーなしやで、けどこれが終わったら少し鍛え方考えや!!」
「わかった。」
。。。。。。
「……おい上杉!!おい!!」
「え?」
キャッチーの松平が心配してマウンドまで上がってきた。
「え?じゃないよ。この1番でボーっとしてんじゃないよ。大丈夫か?やっぱり連投で疲れてるじゃないか?」
「あ……いや……えと…大丈夫だ!!俺はたった今筋肉を味方につけたよ。だから俺、絶対に負けないよ!!」
「は?この土壇場でお前武田みたいなこというんだな。よっしゃ、次の一球で決めよう!!お前の得意なやつでな!!」
それから少し構えて、
ピッチングホームに入る。
決め球はもちろんツーシームだ!!
これで終わろう!!
パコーン!!!
「武田選手打ったーー大きくのびて、のびて入ったーーー!!!さよなら満塁ホームラン!!」
。。。。。
武田に近づくインタビューアー
「はい。じゃー本日サヨナラ満塁ホームランを放った武田選手です。武田選手、日々の鍛錬、そして努力が実った感じですか?」
「いやというよりは今日の星座占い一位だったんで………。」
end
一球入魂 雨月 史 @9490002
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