第11話 大金持ってお買い物

 すると泳ぐのを止めて辺りを見回している。

 波に揺られながら上を向いた男性は、こちらを見て話し出す。


「占いだよ。泳げは大金が手に入るって言われて泳いでいる」


 占いって言われてもAIがした占いでしょうと思いながらも、興味が湧いたので倉庫を降りて防波堤まで歩き出す。聞きたいことは山ほどあるが、ここに青ネームが来たら危険なので、腰にしまった拳銃に手をかけて漂っている男性を見る。


「占いって何処にあるの? ってか当たるの?」


「エイジャの森が霧で覆われる時、死人が姿を現すだろう。

 賢者は1万リベルを懐にしまい、愚者は文無しで来る。


 賢者よ。鏡の前に立って目を閉じるがよい。

 そなたに予言を授けよう」


 何か面白そうねと思いながらも、実はそれどころではない。

 武器をベンダーから買うために大金を持っている。襲われて奪われたとなったら街ごと潰すかもしれない。


 浮いている男に別れを告げると、街の南へ向けて移動する。

 丁度日が暮れて紅い太陽が沈む頃。街を出て馬にまたがり、ベンダーの置かれた家へ向かって走らせる。


 馬で走っていると沢山の家が建ち並ぶ。白い壁に赤い屋根の家や、お城、ログハウスまである。ここら辺は建設可能地帯なのだろう。早く家を建てないと立地の良い場所がなくなってしまうかもしれない。


 だが商売をするわけではないから、眺めが良くて静かな場所が理想かもしれない。

 ちょっとしか冒険をしていないから、まだ分からない部分も多いけれど、このゲームの世界はかなり広いことが分かった。だから急がなくても家は建てられそうな気がする。


 そして黒いレンガで作られた城は、金属の扉が2枚あり、触ってみると開くことが分かった。


 地図ではこの城の中にベンダーが居ることになる。城のオーナーに殺されたら最悪だなと思いながらも、中に入り殺し屋の血が騒ぐ。


 中は絵が掛けられていたり、金色の宝箱が置かれていたりと、オーナーの趣味嗜好がうかがえる。

 足音を立てず拳銃を持って城の中を探る。オーナーだろうが客だろうがプレイヤーは殺す。階段を昇り2階へ行くとNPCが並んで立っていた。


 これがベンダーかもしれないと、手に持っている箱を開けると、中に宝石が並んで置いてある。ふとベンダーの名前を見ると、宝石、武器、防具、その他となっており一目で分かるようになっていた。


 そして武器ベンダーの箱を開けると、お目当てのDesert Eagle Mark XIX .50AEを見付ける。

 金額は78万リベル。拳銃を手にするとメッセージが表示される。


《この商品は78万リベルです。購入しますか?》


 急いでYesをタップすると鞄の中に拳銃が入っている。思わず笑みがこぼれ危険地帯であることを忘れてしまう。


 ――誰?


 人の気配がしたので拳銃を構え、出口まで警戒しながら歩いていくと、1階に人が居る。桃色のドレスを着た女性は、内装を変更しているようだ。


 教われる心配がないと分かると、ポータルブックを開きタヨタへ飛ぶ。

 鞄の中に入っている拳銃を見て口角が上がると、早速、持とうとしたらSTRが足りないとアラートが出た。


 ステータスポイントを15消費しSTRを25にする。DEXに全振りしなくて良かったと胸を撫で下ろし、これで訓練用の拳銃ともおさらばできる。


 さて、一気に金がなくなった。また銀行でも襲撃しようかと、提案しそうになったがヘカレスが居ない。


「ヘカレス何処だ? 何してる?」


「今、ギルドハウスを作ってるところだ。これがないとギルトの恩恵が受けられないからな」


 恩恵とは何だと思った時はヘルプに頼ろう。


【ギルドの恩恵とは】

 ログインボーナスとして1万リベルが貰える。

 ログインボーナスとしてS赤ポーションとS青ポーションが貰える。

 ギルドハウスがある国の課税が5%免除される。

 取得する経験値が増加する。


 今の所持金と同額に近い金額が貰えることに目を見開いた。嗚呼、これって貧乏なのかと呟きながら、明日が来るのが待ち遠しい。


「ヘカレス。そろそろ落ちるよ。またね」


「あぁ、お疲れ。またな」


 そして現実世界へフルダイブ。

 見えるのはクリーム色の天井。変わらない生暖かい風。機材を外し冷蔵庫を開けて中身を見る。


 最近ゲームに夢中だったから、買い出しに行ってなかったことを知り、財布を鞄に入れて肩から下げると、家の扉を開けて暗くなった夜道を歩く。襲撃事件が起きてから、大きな道は使わず気配を消して店まで行っている。


 買う物はパンとミルクとコーヒーくらい。後は外食で済ませてしまうからこれだけでいい。レジに並び茶色い紙袋を受け取ると、店を出て家へ向かって歩き出す。


 すると家の前に黒いバンが停まっている。切れかかった蛍光灯が点滅し、ガラの悪そうな男達がアパートメントから降りてくる。すかさず1台後ろの車の影に隠れて紙袋を脇に置いた。


 1人の男が拘束されて、黒いバンの中に入れられる。

 狙いは奴だけか? 安いアパートメントだから、裏家業をしている者が居ても可笑しくはない。


 手には拳銃を持ち、怪しい車へと近付いていく。

 黒いバンの後ろまで来ると、中を覗くがスモークが貼られて見ることができない。

この男は何をした……?


 助けたところでメリットはない。それどころかデメリットでしかない。

 静かに紙袋の所まで戻ると、黒いバンが動き出し赤い残光が暗路に溶けていく。


 大きな夜空を見上げると、今夜はやけに綺麗な星空だった。昨日と変わらない星空なのに、心の持ちようで見え方は変わる。


 普通に生きられることが、どれほど幸せなことかを噛みしめる。


 街には沢山の家族が生活していて、誰もが幸せそうに笑っている。当たり前のように子供は親に甘え、明日の心配などしない。

 羨ましいとさえ思う。微笑ましいとさえ感じる。これが普通なんだ。それなのに――と、腰に拳銃をしまい立ち上がる。


 アパートメントの階段を登ると部屋の前まで辿り着いた。

 扉に挟んだ硬貨が落ちていないことを確認すると、開錠してゆっくり扉を開き部屋の中を見るが誰も居ない。

 ひとまず拳銃を下ろしハンマーを指で下ろす。部屋の中は荒らされておらず、ターゲットではなかったようだ。


 パンとミルクを持って机へ向かう。ノートパソコンを起動して掲示板を観ていると、エイジャの森が話題の中心で盛り上がっている。

 パンに齧りつき、噛めば噛むほど小麦の味がして、ミルクを流し込むと甘みが口の中に広がるのを楽しんだ。


 ――エイジャの森の占いとは何か?


【エイジャの森スレ】

 山に登ったら金の宝箱をゲットした……開けられないけど。

 木こりをしまくっていたら、彼女ができた。

 イライジャの噴水にコインを投げたら彼氏ができました。

 砂漠を走っていたら、銀の宝箱を見つけて大金をゲットしたよ。


 ――嘘くせぇぇ。


 とは思うのだが書き込みは続く。そして誰もが占って欲しいとエイジャの森へ通っている。泳いでいた男性が言うには、エイジャの森が霧で覆われる時、死人が姿を現すだろう。その現場を見れた者だけが占いをしてもらえる権利を得る。


 もちろん1万リベルが必要だが……。

 これは公式イベントかと思ったが通知はない。シークレットイベントではという書き込みを見たが、そればかりは分からない。


 実際にエイジャの森へ行き、体験してみるまでは何とも言えない。

 だが占いに指示されたとはいえ、海を泳ぐつもりはないが……。


 さて依頼主が一向に現れない――

 もしや、エイジャの森の占いで指示を出すのでは? それなら身バレすることはないし安全に指示を受け取れる。


 良く考えたものだよ。ゲーム内では誰が見ているか分からない状況だ。

 安全な指令を出すには……この方法が最善だと言える。


 木を隠すなら森の中と言うが、本当に森の中に隠れるとは思わなかった。


「明日、ヘカレスと行ってみるかな」

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