第2章 エイジャの森の占い師
第10話 ド派手な金策
ヘカレスに連れられてアテマの冒険者ギルドへ向かう。
きっとここでギルドを作るのだろう。心音が聞かれてしまいそうなほど高まった。新たなギルドが生まれようとしている瞬間だからだ。
だけど不安もある――
それはギルド名だ。幾らヘカレスが強いとはいえ、良いギルド名を考えるのはセンスが必要だからだ。
するとヘカレスの左手に黒い本が現れ、名前の下にギルド名が現れる。
それは『
ヘカレスの頭上を見ているとお誘いがあった。
《ギルド『餓狼牙』に加入しますか?》
不安は解消され迷うことなくYesをタップした。
さてギルドハウスはどうするのだろうか?……ってその前に自分の家すら建ててない。そろそろ家持ちになっても良いのだろうか?
だが家を建てる前に武器が欲しい。武器が欲しいけれど金がない。いつまで初期装備なんだ……。
「金がないんだけど、どうしたらいい?」
「銀行でも襲うか? 俺もギルドハウス建てるのに金が必要なんだよ」
やるなら首都ユーラだと言う。バルラの南に位置している街で、貿易が盛んな街だから金が動くそうだ。銀行には金を預けに来る者と、金を引き出しに来る者が居る。その両方の遺体から金を奪えるので美味しい狩場なのだそうだ。
「やるだろ?」
「もちろんでしょ!」
ポータルブックを見ると首都ユーラ銀行前と書かれている。何回、襲撃してるんだよとヘカレスの顔を見上げる。
作戦を聞くと単純だった。
ヘカレスが両手斧を持ち回転して殺している合間に、遺体から金を盗んで銀行に預ける。それを繰り返していると騎馬兵が来るからポータルブックで逃げる。
「高収入の簡単なお仕事です」
「そう、その通り。逃げるのはポータルブックの1番上な」
そしてヘカレスが飛び数秒遅れて飛ぶと、既に遺体が転がっている。
両手斧を構え回転しながら人込みを移動する。それはまるで駒のようであり、刃が付いたプロペラのようでもある。
青ネームはヘカレスに任せて金を奪うのが仕事。
銀行前は人であふれ返っているからターゲットするのが難しい。遺体が重なっているから下から盗み出すのが良いみたいだ。
鞄を開けた瞬間――
爆発する遺体に驚き、拳銃を構えるが1ダメージなことに気が付いた。
《お知らせ:賞金が上乗せされました。只今の金額は91万リベルです》
「ですよねー」
と呟きながら懸命にお金を盗み出す。
武器も盗めたら良かったのになと思いながら、未だに訓練用の武器を使っていることにプライドが傷付けられる。
5分が経過した辺りで騎馬兵の姿が見えてきた。ここに来るまでにまだ時間はかかるだろう。
「騎馬兵が来たよ」
「分かった、これでお終いにしよう」
そしてポータルブックの一番上をタップして逃走する。
すると建物の屋上のようだ。地図を見るとタヨタと分かる。騒がしいので下を見ると銀行で人が沢山居る。首都ユーラと違って人の数は少ないけれど、赤ネームにとっては貴重な銀行のある街だ。
金庫を開き金を数えると157万リベル稼いだことが分かった。一生懸命にかき集めてたから金額を見ていなかった。
「157万リベルだから785、000リベル渡すよ」
「結構稼げたな。サンキュー」
これで所持金が798、925リベルになった。
これを繰り返せば確かにお金は貯まる。赤ネームになった時は終わりかと思ったけれど、楽しみ方は模索すれば色々とあるということだ。
「心から笑う練習をしなさい。心から泣く練習をしなさい。
精一杯生きる方法を学びなさい。明日こそが本番なのだから。
そして明日は毎日訪れます。日々練習の積み重ねなのです。
ヤハウェの旧約聖書:7章2節」
聖書の一節を呟くと、鞄を広げて得た金を見てニヤついていた。
――グヘヘ。
「セキュリティボムって知ってるか?」
「知るはずがないでしょうが……」
と拳で胸を叩くと、ヘカレスの身体が爆発した。
攻撃だと思ったので一瞬で武器を構え、ヘカレスの安否を確認すると、こいつは立ったまま笑っている。
――あれ、これってさっきの爆発と同じ?
「鞄を勝手に開けるシーフが居るんだ。だから鞄に罠を仕掛けると、開けた途端に爆発する仕組みになっている。爆発によるダメージはたったの1だけ。だけど隠れているシーフのハイドは暴ける」
「銀行で爆発してたのもこれ?」
「あぁ、そうだ。セキュリティボムだよ」
シーフによる盗み対策ってことなのだが、確かに大金を持っている時は不安かもしれない。シーフが青ネームしか狙わないということはないのだから。
「トラップをレベル1だけ取ればセキュリティボムが使える。大金を持ち歩く時は必須だぞ」
ラーニングポイントを1使ってトラップを覚えた。すると右上の本が輝いているのでタップすると冒険の書が開く。その中からページをめくりスキルのページを見るとセキュリティボムが表示されている。
タップすることでターゲットマークが出て、鞄に合わせてスキルを発動する。
これでシーフ対策は万全だ。
早速バザーを開き武器を見ていく。
欲しかった拳銃がまだ売っていることにほっと吐息が漏れる。
Desert Eagle Mark XIX .50AE
レジェンドアイテム
種別:拳銃(近代)
必要Lv:16
必要STR:25
攻撃力:60-80
中距離攻撃力+1.2倍
DEX+10
AGI+10
VIT+10
金額:78万
武具には特級があって、ノーマル、マジック、レア、セット、ユニーク、レジェンド、アーティファクトがあり、後になるほど珍しく高価になる。所持金ギリギリの金額だが買い物は勢いが大切だ。
バザーからアイテムが消える前に購入ボタンをタップする。
しかし鞄の中にアイテムが無い。急いで所持金を確認すると減っていない。とりあえず安堵したが、『何故』の単語が心の中でループする。
「ねぇ、ヘカレス。バザーで買い物したいんだけど買えないのは何で?」
「あー、それはベンダーだよ。バザーで売ると高い手数料がかかるから、自分の家にベンダーを置いてそこで販売できるんだ」
高い買い物だと手数料も高くなる。確かにベンダーの方がお互いに得なのは分かるのだが、買いに行く方は大変でもある。
「ってことは、その家まで行かないとならないわけ?」
「そういうことだ。アイテムの右に地図が出てるから、ベンダーの場所が記載されている」
それは面倒臭いなと思いながら、新しい武器のためだと思いベンダーを調べると、遥か遠くにあるスクニブルという街の近くだった。大陸すら違う場所まで行くなんて……。
「海はどう渡るの? 連絡船でも出てる?」
「えっと、ポータルブックで行けると思うぞ」
――あっ、そうかその手があるのか!
ヘカレスに良い物を貰ったなと改めて実感が湧く。
赤いボタンをタップでひとっ飛びなわけで、便利ではあるがやはり面倒臭い。
スクニブルへ行くと倉庫の上だった。海が見え船でも格納しているのだろうかと、さほど興味もなく安全に街を出ることだけに集中していた。
ここは青ネームの街なので、戦闘なしに街を抜け、ベンダーの元へ行きたいと考えていると、海を泳いでいる者が居る。しかも赤ネームだから驚きだ。
「ねぇ、何で泳いでるの?」
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