50Gのブロードソード(前編)
「弟子とかとってないっスか?」
「アルバイトは時給5Eだ」
「安っ! いや、バイトじゃなくて、冒険者としての弟子っス」
先日の蒼獅子のジャマダハルの騒動以降、冒険者のレックスはリサイクルショップファンタジア店に通い詰めていた。
目的は売買ではない。店長であるアリサの強さに惚れ込んだのだ。
「なんでリサイクルショップの店員に弟子入りすんだよ……」
「いやだって、あの時倒したモンスターの強さは明らかにヤバくて――」
言葉を続けようとしたレックスの口が止まる。リサイクルショップに客がやってきたのだ。
問題はその客の容姿だった。女性としては高い身長、艶やかな銀の長髪、均整のとれたプロポーションは薄手の鎧の上からでも推測できる。あまつさえ、とてつもない美人。異性は勿論、同姓ですら心を掴みかねないその美貌、レックスはまるで陸に上がった魚のように口をパクパクとさせていた。
その女性はきょろきょろと店内を見回した後、アリサとレックスの前に立つと口を開いた。
「ごめんくださぁぁぁぁぁぁい!」
レックスは思わず耳を塞いだ。
「……休業中だよ。帰ってくれ、モーイ」
「嘘言わないでくださぁぁぁぁぁぁい! お客さんの相手をしていたじゃないですかぁぁぁぁぁ!」
「こいつは客じゃねぇ……買いも売りもしないでくだ巻いてるだけのクズだ」
「ク、クズはひどいっすよ、姐さん……」
「誰が姐さんだ!」
リサイクルショップ――
人だけでなく、亜人、獣人、稀ではあるものの悪魔ですら受け入れるファンタジア大陸でも異彩を放つ文字列である。
必然としてそのような場所を訪れるのは変わり者の中でも選りすぐりの変わり者ばかりとなる。
冒険者のモーイもまたそんな中の一人である。
「武器が壊れたので、新しいのを買いに来ましたっっっ!」
「わかった、わかったから! 相手をするから声量を抑えてくれ!」
「わかりましたぁぁぁぁぁぁ!」
「わかってねぇ! ああ、もう、お前は得物は剣だったな? どの程度の武器が欲しいんだ?」
「安いのでお願いしますっっっっ! 今お金ないので!」
「ああ、そうかい。じゃあ、この辺りから選んでくれ」
モーイは複数の剣が突っ込まれた木箱から吟味し始めた。
おそるおそる耳から手を離したレックスは怪物を見るかのようにモーイを眺める。
「な、何なんすかこの人」
「お前の同業者だよ。おつむは非常~~~~~~~に残念だが、レベルは高いし、物の価値を見極める能力はずば抜けてる。店員になるならお前より優秀かもな」
「嫌っすよ、店員が叫びまくる店」
「私だって雇わんよ」
「この剣買いますっっっっ!」
一振りの剣に満足したらしいモーイは財布を懐から取り出した。
「あいよ50Gね」
「100G払います!」
チャリンチャリンと10枚の10G金貨がカウンターで跳ねる。
「あん? 50Gだぞ、この剣は――」
「100G払います!」
「あ、姐さん、何言ってんすかこの人……?」
「む、あいわかった、取引成立だ」
「ありがとうございまぁぁぁぁぁぁす!」
「ちょっと待った! いや、取引成立じゃないでしょう!? 10G金貨、五枚返さなきゃ!」
「うるせぇな、向こうが払うって言ってんだぜ」
「いやだって、その、こんな頭が、いやだから……」
「頭が弱い娘から金を騙し取っている?」
「そこまで言ってないでしょう」
「呪いの武器を売りつけようとした奴がする心配か?」
「うぐっ」
「勘違いしてもらっちゃ困るが、これは真っ当とは行かないが、価値の釣り合った取引だぜ。まぁ強いて言うなら、私が損をしているかね」
「いや、50G得してるでしょうよ」
アリサが一体何を言っているのか、レックスには全く理解できなかった。
そもそもの意図をモーイに訪ねようとしたが、その純真な――ネガティブに表現するなら何も考えていなさそうな目を見て、多分聞いても答えは返ってこないなとレックスは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます