ミュース プロット ストルゲー
猫矢ナギ
ミュース プロット ストルゲー
始まりの記憶は、重くて苦しい土埃の中。
手放す寸前の意識。土の煙幕で彼女の白くぼやけた視界に差し伸べられたのは、力強いあまりにも広く大きな手のひらだった。
「ん。気が付いたか?」
瓦礫の中から助け出された小さな彼女が目を覚ますと、自分より遥かに大きな男がなんでもないような顔で訊ねてくる。
驚いて縮こまる彼女は、その身がとても暖かで柔らかな布に包まれていることに気が付いた。
「足。怪我してるだろ? 治るまでゆっくりしていくといい」
遠目に足元を指差すジェスチャーを見せると、それだけ言って男は片手に持った本に視線を戻す。
彼女は生まれて初めて与えられたぬくもりに、その時はただ身を任せてまぶたを閉じた。
やがて怪我の治った彼女は、男に申し出る。
「助けてもらった、恩返しをさせてください」
小さな頭をさらに下げて請う彼女に、男はしぶしぶ頷いた。
「君は、何が得意なんだ?」
「狭い所に入ることと、高い所まで跳ぶこと、なら」
男の巨躯を見ながら懸命に売り込む彼女に、とても否定の言葉は口に出来ない。
「そうか。それは助かるな」
こうして二人は、共に過ごすようになった。
二人暮らしにも慣れた頃。
「おとうさん」
彼女はいつしか男のことをそう呼ぶようになっていた。物心ついた頃には家族というものが存在しなかった彼女は、初めての家族をそう定義したのだ。
「ん?」
「どうしたら、おとうさんみたいに強くなれますか?」
「……えっ」
自らの足より分厚い男の腕を見てそう訊ねる彼女に、何と返すべきか分からなかった。
彼女に問われた男はその夜、趣味で集めた自宅の資料を懸命に探る。か細く小柄な彼女に、男と同じトレーニングを課すのは無茶だからだ。
翌朝。男は辿り着いた返答を彼女に告げる。
「肉体作りにも体質的に向き不向きがあってな。君は……」
これは、小さなネズミ族の少女と、父と呼ばれた力だけが取り柄な人間の男の物語。
ミュース プロット ストルゲー 猫矢ナギ @Nanashino_noname
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