未来を視たブッコロー、記憶を失った世界

桜大福

第1話 ブッコロー、金が無い 

「くっそぉぉぉぉーーーー!!!!」


 日曜日の昼間から、ブッコローは馬券を外に向かって投げて叫んだ。外した馬券は「単勝」。「単勝」なら当てられると高を括って投じた3ヶ月分の給料は見事消え去った。


「なんだよ。最近は競馬場も鳥類お断りになるしさぁ…2ヶ月もかけて探し当てた競馬場でこれかよ…」


 多くの競馬場で鳥類お断りの張り紙が増えたのはブッコローにとって大打撃だった。そもそも鳥類お断りの張り紙が出るようになったのは「ブッコローが競馬場で騒がしいから」なのだが、当の本人は全く気づいていない。競馬界ではちょっとした迷惑客として有名になりつつある。


 持ち上げたブッコローの財布はいつになく軽かった。

 馬券にかけた金額を思いながらブッコローは満員電車に乗って有隣堂へと向かって行った。





「ブッコローさん、ブッコローさん!」


 呼んでいるのは文房具バイヤーの岡崎弘子。有隣堂のYouTubeチャンネルを支えているブッコローの仲間だ。


「ちょなんすかぁザキさん。どうしたんすか?」


「ブッコローさんが言ってたように馬券買ったら当たったんですよ!」


「え、マジすか!?」


 先程自分の馬券が外れたことがひっかかりつつも、やはり当たったと聞くと気になってしまう。


「三連単を買ったんですよ〜そしたら0を1個間違えちゃって高いの買っちゃいました」


 岡崎とはそういうちょっと抜けた感じの人だ。


「結局有隣堂からもらう給料の半年分くらいは戻りましたよ〜」


 ブッコローは驚きを隠せないのと同時に、岡崎の方が競馬で当てたことが悔しかった。


(なんでザキさんの馬券が当たるんだよぉ…)


 ブッコローは苦笑いしかできなかった。



 岡崎と共になんとか今日のYouTubeの収録が終わった。有隣堂ではブッコローがMCを務めるYouTubeチャンネルがあるのだ。撮影後ブッコローは1人の有隣堂スタッフに呼び止められた。


「ブッコローさん。魔法のサプリメントとかいうものをゲットしました」


 このスタッフは間仁田。間仁田は有隣堂の中で「文房具の仕入れの全権を握る男」という肩書きを持っている。ちなみに岡崎よりは上司である。


「なんなんですか?そのうさんくさそーなものは」


 ブッコローは少し面倒くさそうだ。


「これを飲むとですね、力を得られるらしいです」


「…はぁ。謎すぎてはぁとしか言えませんよ!間仁田さんらしいチョイスだなぁとは思いますけど。一応聞いてあげますよ。1錠おいくらですか?」


「1錠税込1000円です!」


 間仁田が満足そうな顔で言った。


「高ーー!」


 馬券で財布がすっからかんのブッコローには大きな出費だ。


「間仁田さん違います。税込10円です」


 そう声をかけたのは同じく有隣堂スタッフの郁さん。間仁田はいつも金額を間違える。


「間仁田さぁん、また間違っちゃってるじゃないっすかぁ」


「すみません…」


 間仁田はしょぼんとしてしまった。流石にブッコローもそれ以上は言えずサプリメントを受け取ることにした。


「飲めばいいんすか?飲みますよ?」


 そう言ってブッコローはサプリメントを飲んだ。


「うーん、特に何も変わった感じはしませんよ?」


「そうですかー。サプリメント代は今日の出演料から引きますね」


「金取るんですか!?」


 ブッコローは仕方なく10円を捨てることにした。


(今日は金運がないよぉ……)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る