天体観測

美月つみき

天体観測

東京に越してきてから3年が経ち、仕事にも慣れてきた。

毎日満員電車に飛び乗って同じ道を歩き、一日の業務を始める。

後輩もできて、教育係として教わってきたことを教える立場になった。

職場ではパソコンとにらめっこ。

家ではスマホとにらめっこ。

今日もいつもと変わらない時間を過ごしていた。


だが家に帰ってきてビールを1本空けようとしたとき、バチンと音がしたと思ったらいきなり電気が消えてしまったではないか。


「停電か?」

急いでブレーカーを見ると全て下がっていたので上げてみたが、電気はつかない。

慌ててスマホを見ると電波は繋がっているようで、東京都全域で原因不明の停電が起き、原因解明に務めているが復旧の目処がたっていないという速報が届いていた。

ベランダから外を見ると、信号機も全て消えていて、クラクションのなる音や人同士が怒鳴りあっている姿も見て取れた。

これは外に出たらまずいなと思い、家の中に戻ろうと振り向くと、電気のつかない部屋が少し明るかった。

空を見上げると輝くのはたくさんの星の群れと、綺麗に輝く満月がそこにあった。

「すごく綺麗だ…」

昔はもっと沢山の星が見上げればそこにあったのに、いつから見えなくなってしまったのだろう。

ふと寂しく思い、夜空をしばらく眺めていた。


電気は2日かかって復旧し、時間はかかったがいつもの日常へと戻って行った。

けれどもあの日目に焼き付いたその光景は、一生忘れられないものとなった。


ー数年後ー


「お父さん!今日はどんなお星様見れるかな!」


「今日は夏の大三角みれるといいな」

今日は妻と娘の3人で天体観測の日だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天体観測 美月つみき @tsumiki_8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ