【KAC20235】帰り道でさりげなく

amegahare

筋肉どうよ!?

 もうすぐ高校の卒業式。

 こうして学校から一緒に帰れるのも、あと少し。

「今日も寒いね」

 黄色のマフラーが良く似合う美里は優しい声で呟いた。美里の白い息は夜風に連れ去られて、夜の闇に吸い込まれていってしまった。

「そうだね」

 俺は白い息を吸い込んだ星空を妬ましく思った。

 永遠にこの時間が続けばいいのに、と何回願ったことだろうか。

「美里は、体調もずいぶん良くなったみたいだね」

 俺は自分の気持ちを悟られないように努めて冷静に言った。ほんの数日前まで風邪で寝込んでいた美里を気遣う。

「おかげさまで、体調はよくなったよ。心配してくれてありがとう。あと、差し入れの果物もありがとう」

 美里が喜んでいる様子は声のトーンからわかる。控えめだけど、はにかんだ笑顔に癒される。果物を差し入れして心底良かったと過去の行動を心の中で称賛した。

「このままお互いの第一志望の大学に合格すると、、、、離れてしまうね」

 俺は寂しい気持ちを打ち消すように、わざと明るく言ってみた。

「そうだね、、、北海道と東京じゃあ、距離があるもんね」

 声の雰囲気から美里も寂しく思ってくれているようだ。お互いに将来の目指したい夢がある。だから、遠距離になってしまう。この遠距離という地理的制約が、俺たちの関係の進展を阻んでいる原因だ。

 答えのない答えを探すために俺は星空を再び見上げた。俺につられて美里も星空を見上げた。

「ねぇ、聞いていい?」

 美里が遠慮がちに俺に尋ねてくる。美里の顔が赤くて、少し照れているようだ、

「うん、いいよ。どうしたの?」

 美里はもしかしたら、俺に告白するのかもしれない。心の準備をするか。


「あなたは、、、なぜ真冬なのにタンクトップなの?そして、なぜ筋肉をそんなにアピールするの?」

 俺は美里の予想外の質問に面食らった。美里は恥ずかしがり屋なのかもしれない。

「筋肉は、、、裏切らないから」

 俺は満面の笑みで美里の瞳を覗きこんだ。

 

 美里は凄い勢いで、俺から目を逸らしてしまった。

 まったく照れ屋さんなんだから。

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