元気の源。

一色 サラ

元気の源

 今日も身体が上手く動かない。お腹空いた。まだ、食事の時間じゃないのか。君に会いたい。今どこにいるのだろう。君が部屋にやって来ることを私はいつもワクワクしてしまう。この朝の待ち遠しい時間だ。君が来て抱き上げてくれると思うと、私は身体はドキドキと鼓動を打ってしまう。あの筋肉に包まれた。私の弱った身体が、生き生きしていくのを感じてしまう。


「晴美さん、おはようございます。」

「ああ、たっちゃん。来てくれたのね」

 部屋に向かいに来た下山しもやま達樹たつきが微笑んでいる。君が来ると一瞬で私は元気になってしまう。この82歳の老婆は嬉しくてたまらいのだ。

「朝食の時間なので、食堂に行きましょうか。」

 抱き上げてくれて、車椅子に身体が降りた。この数秒、筋肉たっぷりの腕に包まれる。幸福だ。

 

 老人ホームの食堂には、何かが食事を開始していた。入り口近くに座っている田中の姿があった。

「また、ババアが喜んでいるよ」

 この婆は嫌味しか言えないのか。関わりたくない人間だ。2つテーブルほど通りすがりて、私の車椅子は止まった。

「おはよう。晴美さん、いい天気ですね」

「おはよう。徹子さん」

 隣に既に来ていた檜山徹子が既に食事をしていた。

「晴美さん、おはようございます。朝食ですよ」

 食堂から女性の介護士がお盆に載せられて食事を運ばれてきてくれた。そして、その女性が田中の元に行った。

「田中さん、食事は終わられましたね。」

「まだだ」

「でも…皿には空ですよ」

「まだだと言ったら、まだだ」

 また、田中の婆がわがままを言っている。女性の介護士は大変そうだ。

「また、やってるのね」

隣の檜山徹子は、田中方を見ずに言った。

「何がだい?」

「若い男がいいのだろう。でもいつも女だから嫌なのだろう」

 田中には男性より女性が介護されることが多いらしい。私と違って、田中は杖を突きながらも自ら歩行が可能だった。だから、肉体的介護がそれほど、要らないためだろう。

「下山くん、田中さんを部屋まで連れててくれない?」

「分かりました」

 田中が君に抱っこされて、部屋へと連れて行くのを見ると辛かった。私も抱き上げて、部屋まで連れってほしい。





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