マッチョは一日にしてならず
山本アヒコ
ハゲとマッチョ
筋トレをはじめようと思った。
なぜならハゲたから。
『目指せステイサム』
長半紙に筆で書いたものを壁に貼って何度かうなずく。
誰もが知っているだろう映画スターのジェイソン・ステイサムのポスターも、その横に貼った。
知らないのなら映画を観てくれ。有名なのはトランスポーターか。ワイルドスピードでもいい。
さてこのステイサムはスキンヘッドだ。他の髪型はない。
が、とある作品で彼はホームレスの役をやっていた。それを見たとき自分の脳に衝撃が走った。
「ハゲている!」と。
スキンヘッドじゃないかと思ったかもしれないが、そうじゃない。
ホームレス役ということで髪がのばされていたのだが、それがわずかな量で、細い草の根っこみたいなのがのびているだけだったのだ! これを見たときの衝撃は忘れられない。
それから数年、自分もハゲた。どうしようもなくハゲた。
最初は抜け毛が多いなと思っただけだった。しかし鏡を見るたびに前髪の量が減り、頭のてっぺんから見える地肌の面積が増えていく。地球より先に自分の頭が砂漠化してしまった。アポカリプスだ。
増毛しようとすら思った。しかしそんな金はなかった。
絶望に心が支配されかけたとき、脳裏に彼の顔が浮かんだ。
【ジェイソン・ステイサム】
彼は最高にカッコイイ。そしてマッチョだ。さらにハゲ。
つまりハゲの自分がマッチョになれば、ステイサムになれる。決まりだ。俺はステイサムだ。
まずはダンベルをスポーツ用品店へ買いにいった。思ったより高い。でも軽いやつなら安いのもあった。とりあえず五キロ……は重いので二キロでいいか。ヨガマットも必要だ。電気で筋肉を動かす機械もいいな。でも高い。
悩んだ結果、ダンベルとプロテインを買った。プロテインは飲めば筋肉がつく粉らしい。
帰る途中でコンビニに寄ると、新作のスイーツがあったので買う。そこでプロテインバーというものを見つけたので、それも買った。チョコレート味なのにプロテインということは、カロリーはゼロだ。
ダンベルとプロテインが重い。フラフラとした足どりでアパートへ戻ると、靴を脱ぐ前に疲れが限界で廊下に顔から倒れた。
息が苦しい。もうこれだけで十分なトレーニングなのではないだろうか。
カロリーが足りない。コンビニスイーツをいくつか食べると落ちついてきた。
そうだプロテインを飲もう。水に溶かすとココア味なのでそれっぽい色になった。
しかし飲むと甘くない。砂糖をスプーンに山盛りで五回入れると飲める味になった。
これで俺もステイサムになれるだろう。今日はステイサムが主役の映画を、コーラとポテチを食べながら観るか。
そうだ、ピザも頼もう。
マッチョは一日にしてならず 山本アヒコ @lostoman916
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