バトルものの練習

てぃ

KAC20235「筋肉」

 肘を伸ばし、柄を持つ手を逆手に両腕を交差し、剣を真一文字に肩の高さで

寝かせる。その特異な構えから撃ち出される術技は「魔破マッハ」と言った。


「全身全霊。突進力に全てを賭けて叩き斬る、君の術技はまさに速さの極致と

言える。しかし、この度の速力と膂力りょりょくのぶつかり合いは私に分があったようだ」


 勝ち誇ったように首の骨を鳴らしてみせる。上半身裸、スキンヘッドの筋肉達磨だるま

わらう。


「君は切り札を失った。それは日に何度も使える術技ではあるまい? 私のように

強靭で、強大な肉体を持つならば兎も角。その華奢きゃしゃ繊細せんさいのような体躯からだ

ではね」


「……俺について随分と詳しいようだ」


「勿論。君の素性も、君に懸けられた賞金の額も知っているよ? だからこうして

私は君の首をもぎ取りに来たんだ。今日をもって愛すべき禁欲の日々と鍛え上げた

我が肉体に別れを告げ、明日からは安息と甘美なる堕落の日々に舌鼓を打つのだ。

素晴らしい人生設計だろう?」


「……利己的な人間は嫌いじゃないな」


「ほう、その心は?」


「斬り捨てても心が痛まないからな。襲ってくる連中が誰も彼もアンタのような

奴だと実にやり易い」


「出来るかね、君に!?」


「──出来るさ」


 再び、特異な構えをとる。目に見えるほどの魔力の輝きが全身を覆う。


「フハハ、まるで馬鹿の一つ覚──」


 首が飛沫しぶきを上げて宙を舞った。鍛え上げた筈の筋肉が、術技と組み合わせた

無敵の肉体が鋼の刃如きに負けたのだ。──まさか一度目の衝突で傷ついた箇所を

寸分違わず狙われた? 違う、そんな神業ではない。理由はもっと単純シンプルである。


 一度目の衝突でお互いに消耗していたのだ。魔力も、肉体も。下手に鍛え上げた

肉体のせいで彼は属疲労に鈍かった。見落としてしまった。その怠慢がなければ

勝負も或いは──


「俺は俺の首に賞金をけた簒奪者さんだつしゃの首をねる。例えアンタが生きてようが、

思い描いた通りにはならないさ」

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バトルものの練習 てぃ @mrtea

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