第53話 アイドルだった私、いいこと思い付いた!
「ん~。タルマン公爵家かぁ」
……あれ?
目の前のマクラーン公爵、腕を組んで渋い顔してません? え? もしかして、公爵同士って仲が悪いものだったりする?
昨日の今日で、私はマクラーン公爵に約束を取り付け、会ってもらっていた。
タリアの話をうんうんと聞いてくれていた公爵、何故かタルマンの名を出した途端、渋り始める。
「もしかして……あまり仲がよろしくない……のですか?」
爵位を持つ者同士、領地争いのようなことがあるのかも、などと危惧するも、
「いや、そういうわけではないんだ」
乾いた笑いで返すマクラーン公爵。
「フレイ・タルマンというのが今のタルマン公爵なんだがね、先代の公爵……フレイの父親は、私の従兄弟にあたる」
「まぁ、そうなのですか!」
「とはいえ、私の父の兄……伯父の再婚相手の連れ子なんだ。私と血の繫がりはなくて。しかし従弟同士だったからね、なにかと比べられる対象になったりしたのさ。大人になるころには神経を使う付き合いしか出来なくなっていた」
なんだか大変そう。結局それって、親のエゴじゃない。
「関係が気薄なまま、いい年になってね。そうしたら、三年前にあっけなく病気で亡くなってしまったんだよ」
「そうだったんですね」
「……そんなわけで、公爵未亡人であるミズーリのことも、現公爵のフレイのことも、実はあまり詳しく知らないのさ」
「なるほど。特に対立しているとかそういう話ではないのですね」
それなら問題はあるまい。
顔を出すのが
「では、承諾さえいただければあとはこちらで進めさせていただきます。が、実はもう一つお話がありましてぇ」
えへへ、などと言いながら、マクラーン公爵の顔色を窺う。
「なにかな?」
少し警戒するように身を引き、それでもちゃんと聞いてくれるんだから、本当にマクラーン公爵ってばいい人だなぁ。
「今回、タリア……ブティック『リベルターナ』の主人ですが、少しばかり大きなことを考えているみたいなのです」
「大きなこと?」
「ええ。その、王都に……店を出したい、と」
「王都に!?」
「はい。マクラーン公爵に、まぁ、その、後ろ盾……になってもらえないかな~、なんて。というのもですね、リベルターナはマーメイドテイルと縁が深く、私のデザインしたドレスの他にも、実は女性の下着に力を入れております。これ、一大ブームを生むくらい画期的で素晴らしいものなんですよっ。王都でも売れます! 売れるはず!」
なんだか、説得力ないなぁ、私。
「下着……、」
あああ、公爵、ちょっと引いちゃってるじゃん。やっぱダメかなぁ。
「うむ」
腕を組んで考え込む公爵。
「王都にねぇ……」
沈黙が続く。
なんとなくいたたまれず、私は私で考え事をする。
今度のタルマン公爵家での舞台は、新人たち中心に組み立てよう。アッシュが新曲を上げてくれるの、いつになるかなぁ。来るのはタリアのお店の常連客だって話だから、衣装の売り込みも怠らず……ん?
衣装の売り込み……。
「そっか!」
「うわっ」
私が急に大声を上げたもんだから、向こうは向こうで考え込んでたマクラーン公爵が飛び上がる。
「な、なななんだっ」
「あ、ごめんなさい! いいこと思い付きましたっ。王都への出店話は一旦置いておくとして、私がこれから立てる計画をひとまず聞いていただけますか?」
そうよ!
これなら王都に店を出す話も、まんざらでもないような気がするわっ。
*****
「新作……ですか?」
アイリーンが首を傾げる。
「そ! ドレスの新作、今からどのくらいデザイン作れるかな?」
時間はない。けど、出来るだけのことをやってみたい!
「それは……、」
「時間がないの。無茶なこと言ってるってわかってるけど、なるべく沢山の衣装が欲しいんだ。できれば男物も!」
「そんな無茶な」
さすがのアイリーンも肩をすくめた。
「私も手伝うから、ね?」
お願いポーズをとる私に、アイリーンが深く息を吐き出す。
「そもそも『ノア』はお姉様のブランドですわね。手伝う、ではなく、お姉様がデザインを考えてくださらなければ話にならないのですけれど?」
呆れ気味に私を睨むアイリーン。
「あ……そう…だね」
正論を叩きつけられ、焦る私。
「よし! じゃ、私が考えたデザインをアイリーンが清書する!」
「ええ?」
「だぁって、私が描くと遅いんだもん」
「それはそうですが」
そんなこんなを話していると、通りかかったシャルナに声を掛けられる。
「なんです、大きな声で」
「お母様」
「あ、すみません」
謝る私をチラ、と見、
「デザインがどうとか?」
と、聞き返す。
おっと、これはっ、
……私、またまたいいこと思い付いた!
「お義母様、お願いがあるのです!」
思い切って、声を掛ける。
「またですかっ?」
構える、シャルナ。
でも、うん。これはきっと引き受けてくれるに違いない!
「絵の下手くそな私の代わりに、お義母様のお力をお貸しいただけませんかっ?」
そう言うと、私はアイリーンとシャルナの腕を掴んだ。
「ちょ、お姉様っ?」
「なんなんですかっ」
戸惑う二人を引っ張っていく。
「今から説明します!」
私は自室に二人を連れ込むと、紙とペンを机に置いた。
「今度、タルマン公爵家での公演が決まりました。招待客はリベルターナの常連のお客様たちです。タリアからのお願いで」
「それは私も聞きました」
さすがシャルナ。出入りしているだけあって、知ってたか。
「そこで、こういうことが出来ないかと思ったのです」
私は紙にペンを走らせ、二人に説明を始める。徐々に、二人の頬に赤みがさしていくのが分かった。
ね? やってみたいでしょ?
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