第18話 アイドルだった私、歌う!
その日はやってきた。
満を持しての、エイデル伯爵家主催の……というか、私プロデュースの社交パーティー当日。
私の計画は、順調だ。
あとは野となれ、山となれ。
「ああ、緊張してきた……」
柄にもなくガチガチになっているランスに、声を掛ける。
「大丈夫ですよ、今日のランス様、本当にカッコいいです!」
私がデザインした衣装は、王子服。男性アイドルが着るような、ちょっと派手目のやつで、アルフレッドと色違いである。二人にはユニットを組んでもらい、今日はキレッキレのPOP系ダンスを踊ってもらう。さすがに歌までは手が回らなかったからね。でも、今日の反応次第で、次回は歌も……って思っているのだ。
「お姉様っ! 会場、どうなってますの?」
ひらひらの衣装で駆け寄ってきたのはアイリーン。私とお揃いのドレスは、マーメイドテイルの衣装に似せて作った。とはいえ、マイクロミニのスカートはさすがにダメだとマルタに言われたので、膝がギリ隠れるくらいのもの。アイリーンにとても似合っている。
で、こちらも若干の緊張が窺えるが、背筋はピッと伸び、やる気に満ち溢れていた。彼女の頑張りは見事なもので、マーメイドテイルの振り付けはすべて完璧。歌は私のハモリパートを少しだけ、という感じではあるが、この短時間でこの成長っぷりは、先が楽しみだった。
そして一番の驚きは……、
「よっしゃ、頑張ろうな!」
アルフレッドである。
ただのお軽い良家の次男坊だとばかり思っていたのだが、とんでもない! 厳しい練習にも弱音を吐くことなく、メキメキと力を付け、誰よりもプロ意識が強いのだから驚いた。
「じゃ、説明するわね。まずは私とアイリーンで歌と踊りを一曲披露して、畳みかけるようにランス様とアルのダンスで、会場をドーンとぶち上げる。そして…、」
最後の打ち合わせを終えれば、本番だ。
いざ、開幕!
*****
いつもとは違うホールの作りに、招待された貴族たちがざわついているのがわかる。会場に来た令嬢たちは、半分くらいがミモレ丈のドレスを身に付けており、ブティックで売り出した私のブランド『ノア』のドレスがいかに好調であるかを物語っていた。
私は、ホール中央、一段高くなった円形のステージに上がると、来賓たちに向かってお辞儀をする。マイクがないから、結構大きな声を出さないといけないんだよね。
「皆様、本日はエイデル家主催のパーティーにおいでいただきありがとうございます。ダンスタイムに先立ちまして、まずは私達、『新生マーメイドテイル』と、新しいユニットである『シートル』のパフォーマンスをご覧いただけたらと思います!」
そう。ダリル家の二人には、シートルって名前つけちゃった。マーメイドテイルのファンを意味する言葉。まぁ、間違いではないよね。二人とも、私のファンなんだから。
そしてマーメイドテイルは、私一人ではなく、今はアイリーンと二人だ。
私は、舞台脇に並んでいる音楽隊の皆さんに合図を送った。ジャン、という弦楽器の音を皮切りに、打楽器がリズムを刻む。
ああ、前奏だ……やっぱ音があるって、いいっ!
「それでは聞いてください、新生マーメイドテイルで、曲は『ドキドキ密集』です!」
*゜*・。.。・*゜*・。.。
密集してタイの❤(あっはーん)
マスク三密ディスタンスだって
全部無視していいでしょう?
あなたの隣に座ってぎゅーして
アイスも半分こ(間接きっす☆)
そうね魔法は使えないかもだけど
あなたの心に灯をともし
どんなに暗い毎日さえも
あっという間に燃え上がる!
密集してタイの❤(あっはーん)
おにい兄貴にそこのボケ兄
言い方色々あるでしょう?
あなたの隣に座ってぎゅーして
私はお姫様(プリンセス!)
そうね兄弟仲良くねなんて
意味間違って育って
どんなにダメだと言われても
あっという間に燃え上がる!
密集してタイの❤(あっはーん)
密集してタイの❤(うっふーん)
*゜*・。.。・*゜*・。.。
コミカル調の曲に、くるくると目まぐるしく回るような振り付け。
アイリーンの表情が、コロコロ変わるのが何とも可愛らしい。
歌詞はかなり意味不明だし、合いの手も貴族向きじゃないんだけど、私はあえてこの選曲をしたのだ。そして、これを見たオーディエンスの反応は、驚き5、ワクワク3、怒り2くらいだろうか。
うん、上出来!
曲が終わると、私とアイリーンは一度舞台を降りる。
入れ違いにシートルの二人。位置について、音を待つ。
ドン、ドドドドンドンッ パッパーッ
打楽器からの、管楽器。
この世界にはなかったであろう、ロック調のリズムとメロディ。
アップテンポなそれに合わせて、二人が舞台上を所狭しと踊りまくる。
アクロバティックなターン。ジャンプに、キレのいいステップ。
二人の動きがピタッと決まる、兄弟ならではのコンビネーション。
それまで遠巻きに見ていたご婦人方の目がキラキラと輝き出し、どんどん舞台へと近付いてくるのがわかる。
途中、一人ずつのソロも入れたのだが、もうその頃には『きゃ~!』という黄色い声援が、ホールに響き渡っていたのだ。
元々顔だけはいい二人である。こうして人前に出せば間違いなくファンが付く。
私の見立て通り、彼らを見ているご息女、ご令嬢の目がハートマークに変わっていくのがわかる。
そして舞台の二人も、快感に身を委ねているに違いない。
舞台に上がる喜びを知ってしまえば、私に固執することもなくなるだろう。
計画は成功だ。ダリル伯爵には怒られるかもしれないけど。
ダダンッ
曲が終わり、二人がポーズを決める。
と、ホールからこれでもかってほどの声援が飛んできたのだ。
「きゃ~!!」
「カッコいいーっ!」
「いいぞーっ!」
有難いことに、ご婦人、ご令嬢だけではなく、彼らは殿方たちの心も掴んだらしい。野太い声も聞こえてきている。
カッコいい、は、性別を超えるのだ!
「さ、ここからよ。アイリーン、いい?」
「もちろんですわ!」
私は、今日のために練りに練った全てを出し尽くすべく、再び舞台へと上がったのである。
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