第17話 アイドルだった私、プロデュースを始める
そんな私に、もう一つビックリなことが待っていた。
「……え? デザイン?」
例の、あのブティックから服のデザインを頼まれたのだ。
なんでも、あの日私が裾を破って丈の短くなったドレスで踊っていたのを見た貴族たちが、こぞって丈の短いドレスを作ってほしいと店に殺到したのだそう。
「リーシャ様のデザインしたドレスなら、きっと人気が出ると思うのです!!」
店のオーナーが直々に屋敷へ出向き、私にブランド立ち上げの話を持ってきた。父マドラが嫌がるのではと思ったが、どうやら彼、お金が大好きな人みたい。二つ返事でオッケー出したのよ!
「お父様がそう仰るのでしたら……、」
私、服のデザインなんかしたことないけど、興味はある。マーメイドテイルの衣装とか再現出来たら嬉しいかも!
「あ、そしたら、私からもお願いがあるのですが…、」
私、一番やりたかったのは服のデザインじゃない。
そう、下着よ!!
ガッチガチのコルセットみたいなのではなく、私の頭にあるのは、スポーツブラ! 動きやすくて、でも動いても揺れを軽減、痛くならないスポーツブラが欲しい! 今すぐ!
「まぁ! 下着を?」
ブティックのデザイナーさんとオーナーは驚いていたけど(伯爵令嬢が下着の話だなんて、本当は有り得ないことらしい)私の熱弁を聞くにつれ、俄然やる気になってくれた。まずは下着を作ってもらう。その間に、私はドレスのデザインを考えることになった。
それから、音源だ。
この世界にはCDのようなものはなく、基本、音は生演奏。私は楽隊の人を屋敷に呼び、ダンス曲のアレンジ、そして我がマーメイドテイルの持ち歌に伴奏をつけてもらおうと思ったのだ。そうしたらもっとコンサートっぽい感じで、歌も歌えるじゃない?
そして、目下最大の悩みは…、
「お嬢様、その……、」
マルタが困り顔で私の元へとやってくる。ここのところ毎日だから、私は何も聞かずともわかる。
「またなの?」
「ええ、お断りはしたのですが……、」
マルタの言葉を聞き終える前に、
「リーシャ!」
「今日も美しいな、リーシャ!」
ずけずけと入り込んできたのはダリル伯爵家の男二人。あれ以来、毎日のように押しかけてきているのだから驚く。
「またですか? 私、忙しいんですけど」
心底迷惑、とわかるように接してあげてるつもりなんだけど、二人は懲りる様子もなく花やらお菓子やらを携えてやってくるのだ。あんたたち、少しはアイリーンの立場とか気持ちも考えてほしいんだけど…って、まぁ、アイリーン、あんまり凹んでる感じはないんだけどさぁ。
「忙しいと聞き、何か手伝えることがあるなら俺が手伝おうと思ってな!」
「いいや、俺が力になるぞ。リーシャ」
私の元に結婚の申し込みが殺到しているという話をどこからか聞きつけ、他の男に取られまいと必死らしい。
しかし、毎日押しかけられても困るのだ。
だから私、考えた。この際だから!
「ええ。お二人には、やっていただきたいことがあるわ。よろしいかしら?」
にっこり、笑う。と、二人は嬉しそうに私にホイホイ付いてきた。ふふふ、あんたたちには一肌脱いでもらうわ!
「くっ……、リーシャ、」
「はぁ、はぁ、そんな、激しいのはっ、」
「まだ始まったばかりじゃない!」
「はぁっ、はぁっ、リーシャがっ、そんなに動くからっ、」
「も、俺…、限界っ、」
「ダメよ! もっと動いて! 私が満足するまでは絶対にやめないから。さ、もう一回!」
汗だくで倒れ込むイケメンに向かって、私は容赦なく命を下す。なんだか爽快!
「もう一回って、」
「もう、腰が立たない……、」
弱音を吐く伯爵子息たち。
「まったく、仕方ないわね。それじゃ、少し休憩しましょうか」
私はマルタに飲み物をもらい、一気に飲み干す。ダンスの稽古は教える方だって体力を使うのだ。
そう。
私、この二人にダンスを教えている。
社交ダンスではなく、いわゆるストリート系のダンス。昔レッスンで習ってたから、少しは踊れる。でも教えるとなるとなかなか難しいものなのね。そもそも二人、基礎が全く出来てない。体も硬いし、体力もない。だから余計に大変なんだけど…でもね、イケるわ。だって二人とも顔は抜群にいいんだから!
「二人とも、体力がなさすぎるのね。明日からは走り込みもしましょうね。今度のエイデル家主催のパーティーまでに仕上げないとっ」
私の握り拳を見て、ランスとアルフレッドが深い溜息をついた。
「明日もかぁぁ……」
アルフレッドが情けない声を出し、天を仰ぐ。
「あら、嫌なら結構よ。私だって、やる気のない人に無理矢理押し付けようだなんて思ってませんから」
腰に手を当て、アルフレッドを見下ろす。と、一瞬ムッとした顔をしたものの、すぐに元の表情に戻る。
「いや、あの日のリーシャは間違いなく輝いてた。俺は諦めない!」
あら、意外と根性あるのね。
「俺もだ。一緒に踊って分かった。あんたは生半可な練習を積んであそこに立ったわけじゃない。同じ舞台に立つなら、これしきの練習は余裕でこなせなきゃダメなんだ。お前に釣り合う男になるためにはっ、」
おー。なんだか随分変わったのね、ランス。いいわ。そのやる気!
「二人とも……ありがとう」
私は座り込んでいる二人の肩に手を置いた。
そして、続けた。
「じゃ、休憩おしまいっ!」
パンパン! と手を叩くと、二人をスタートポジションに立たせるのであった。
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