第11話 令息と令嬢の反省会
「最近、エリシャ嬢に避けられてる気がする」
夕方のライクス侯爵邸。学園から帰ったテオドールは、自室で頭を抱えていた。
「目が合っても逸らされるし、廊下ですれ違いかけても別方向に曲がってしまう。今日なんか、合同授業で一緒の講堂になったから隣に座ったら、さりげなく席を移動されたんだぞ?」
「それ、完全に嫌われてますね」
専属執事ケントにズバッと言われて、令息は「うぎゃ」と机に突っ伏す。瀕死の重傷を負ったようだ。
「一体何をしでかしたのですか?」
「わからない。でもクッキーを貰った日以降、もう三日も会話してない」
違うクラスでも、日に一度は挨拶くらい交わしていたのに。
落ち込むテオドールに、ケントはティーセットを用意しながら、
「どこかでエリシャ様の
「……俺、『快活』が悪口として使われるの初めて聞いたぞ?」
褒めの要素で
「でも、本当に心当たりがないんだよなぁ」
肺が空っぽになるほど大きなため息をついて項垂れる。ジュースやクッキーのやり取りで、心の距離も縮まったと思ったのに。
「あまりに追いかけ回すから、坊ちゃまのストーカー気質に恐れをなしたのではないですが?」
ケントの忌憚なき意見に、テオドールは「ぐはっ」と胸を押さえる。
「そんなにしつこくしたつもりはないんだけど……」
心当たりがないわけじゃない。むしろありすぎる。
「少し焦りすぎたのかな」
自嘲気味に呟く。
「所詮俺は
元婚約者の親友に付き纏われても気味が悪いだけだろう。テオドールはザカリウスの乳兄弟で、こんな事態になった今でも一番の親友だ。
「これからは、もっとしっかり距離を取るべきだな」
テオドールは独りで結論を出して、豪奢な銀髪をくしゃりと乱した。
◆
――その頃、オルダーソン公爵邸では……。
「今日も逃げてしまったわ……」
狼のぬいぐるみを抱きしめ、エリシャはベッドの上に座り込んでいた。
「何度か目が合ったのに逸しちゃったし、移動教室でせっかく隣になったのに思わず席を移動しちゃった。どうしよう。わたくし、テオドール様に嫌われちゃったかしら?」
「それ、どっちかっていうとお嬢様の方が嫌ってません?」
辛辣なメイドのツッコミに、令嬢は「はうっ」と涙目でぬいぐるみに顔を埋める。
「だって! あのクッキーの日以来、どんな態度を取られるか怖くて話しかけられないんだもん……」
語尾はか弱く消えていく。
「こんな気持ちになるなら、余計なことをしなきゃよかった。たまにお喋りできるだけで幸せだったのに」
欲張って距離を縮めようとしたから、失敗した。
「わたくし、テオドール様のこと諦めるわ。ただの学友として慎ましく同じ時間を過ごすの」
「お嬢様が決めたのなら、それでいいと思います」
ヒックヒックと揺れるエリシャの肩を、隣に腰掛けたアミが優しくさする。
こうして、令息と令嬢は一つの決断をした。
――のだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。