第9話 王女の休日
「え? 今日はお勉強は休み?」
「はい、息抜きに街に出ましょう」
「でも、まだあの古文書も読まないとだし、それにあの本だって読み込まないと」
「ダメです」
なぜそこまで頑なに彼は外に連れ出そうとしたのか、私はよくわからなかった──
リオネル様に半ば強引に連れて来られたのは、街の端っこにある小さな雑貨屋さんのような場所だった。
扉を開けて中に入ると、いかにもな強面の職人さんがいる。
ガタイのいいその職人の男性は、お店の奥にあるカウンターの向こう側で何か細かい作業をしている。
「店主、少しお店見て回ってもいいですか?」
「ああ」
職人の男性はピクリとも笑わず、また声だけでリオネル様だとわかっているのか慣れたような雰囲気で言葉数少なく返事をする。
そして、リオネル様がなぜ私をここに連れてきたのか、理由が店の棚を見てわかった。
「綺麗……」
そう、お店にあるいくつかの棚やテーブルにはガラス細工の数々が並んでいる。
他の店でもガラス細工の品は売っているのだが、その多くはお皿やコップなどの実用品が多い。
しかし、このお店のガラス細工はおそらく先程の店主が一人で手作業で丁寧に作っているであろう、細やかな置物が中心で、その置物はうさぎやねこ、犬などの動物から、靴や花などの身近なもののガラス細工が多い。
リオネル様は私がガラス細工が昔から好きなのを覚えていてくれて、ここに連れてきてくれたのであろう。
お店を見て回っていると、リオネル様は店主に何か言って受け取っていた。
そのままそれを手に私のほうへ近づいて来ると、手に持っていたそれを私に渡す。
「これは?」
「今日誕生日でしょう。よかったら、俺からのプレゼント受け取ってもらえませんか?」
そう言われて今日が自分の誕生日だということに初めて気づいた。
ああ、そうだ、今日は誕生日だった……。
彼から丁寧に包装されたそれを受け取ると、今開けていいかと聞いて許可をとって開ける。
すると、中からは綺麗なバラの花をモチーフにした髪飾りのようなものが出てくる。
「飾ってもいいですし、もしお嫌でなかったら髪につけていただいても大丈夫です。そのために頑丈に作ってもらいました」
私は彼のその気遣いが嬉しく、ぜひにということで髪につけようとする。
でも自分で髪飾りをつけたことがない私はうまく手を後ろに回して自分でつけることができない。
それを見かねたリオネル様は私の手からその髪飾りを受け取ると、そっと優しい手つきで髪につけてくださる。
鏡がないので、自分で似合っているのかどうかわからずむずがゆい思いでいると、その心を読んだかのように彼は言った。
「とても似合っていますよ、クラリス様」
「そう? よかった……」
そうそっけなくいつものように答えているふりをしたけど、内心ちょっとドキッとしていて自分の気持ちを隠すのに必死だった。
彼は私と目が合うと、眩しいほどの笑顔を見せてくれる。
ああ、この笑顔をずっと見ていられたら──
彼の隣にいられたら──
なんて叶わない想いを最近は抱いてしまっている。
きっと国王が私のために婚約者を選んでいるだろうし、きっとこの恋は叶わない。
何より剣の腕を磨いて強くなることを目指していた彼が、国王になりたいと願うはずなんてない。
そうね、今だけ。
せめて今だけこうして彼と一緒にいられる時間を大切にしよう。
私が愛すべき人が見つかるその日まで。
私が国のためにできる最大限の事をして命尽きるその日まで。
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