冒険日記〜親に捨てられ十五年、知らぬ間に最強冒険者になってました!〜

はにはや

零章 冒険の始まり 

第1話

「良一! 十五歳の誕生日おめでとう!」

「ありがとう、母さん、父さん、兄さん」


 目の前に並ぶ豪勢な食事、今日は俺が生まれてから十五年。

 この国では十五歳になると仕事が始まる。昔は冒険者になりたいとか思ってた時期もあるけど、今は父さんと同じ国王騎士団になることを考えている。

 夢見がちなのは良くないし、死ぬ危険があるなんて真っ平ごめんだ。ただでさえ街の周りにいる魔物は強いのに、外に出たらこれより強いやつがいると思うと末恐ろしい。

 その分国王騎士団は温そうではある。特に街から出ないし、訓練は厳しそうだが街周辺の魔物としか戦ってない。


「良一、本当に冒険者にならなくていいのかい?」

「いいよ。父さんの仕事俺も手伝う。兄さんと一緒にこの街守るよ」

「そんなにうちは儲けてないけどなあ」

「こんなに豪華な食事なのに?」

「まあな。現実は厳しいんだよ」


 ははは、と高笑いするその姿に危機感は感じられなかった。もっといけるぞという余裕が感じられるほどだ。


「良一、後で話がある。十五歳なんだし腹割って話そうや」

「え、うん」


 父の真剣な顔に、つい気圧された。 



***



 ご飯を食べ終わって、風呂を済ますと、父さんがベランダで待ってるよ、と母さんに言われた。それから宝物も持って会いに行けと、追加で言われた。


「父さん、来たよ」

「おう」


 ベランダの戸を開けて声を掛けると、足を組み、片手にワイン、机に頬杖をついて遠くを眺めていた。


「話って?」

「俺はな、昔、どこでも行けると思ってた。なんでもやれると思ってたし、自分の可能性なんざ無限大だと、そんなふうに過信していた」

「うん」

「良一には、その気持ちがねえなあ」


 そう言って、ワインをぐいと飲み干した。


「ついでくれないか?」

「ああ、うん」


 これって俺の誕生日だよな?

 相変わらず人使いの荒い父さんには苦笑してしまう。


「やっぱよ、良一。お前俺の子じゃねえから、そういう度胸がねえのか」

「…………え?」

「良一、あんな、お前俺の子じゃねえんだ」

「そ、んな、は?」

「あれは、何年前……そう十五年くらい前。良一、お前は家の前に放置されてたんだ」

「冗談?」

「まさか。名前と『よろしくお願いします』って文言だけ書かれて放置されてたんだ。いや、泣き声が聞こえて、何かと思ったらなあ」

「誕生日にする冗談か? それ」

「……まあ、そういうことだ」


 父さんは目を合わせてくれなかった。その喉を潤すように、そして静まり返った空気に耐えかねて、ワインを一口飲んだ。


「良一ィ、冒険者になりたいんだろ」

「もういいってそれは、危険だし」

「先代が残した秘宝、あるだろ。お前が綺麗って言って宝物になってるやつ」

「ああ」

「あれ、持ってきたか?」

「うん」


 昔、俺が綺麗だと言って、欲しがったのは宝石だった。昔こそ価値がわからなかったが、父さんが家宝と言うほどそれは高価で、綺麗で、子供の俺が惹かれてしまうのもわかる品物だった。よく小さな子供にそれを与えたな、と父さんの太っ腹加減にも感服する。


「それよ、念じてみろ。剣になれって」

「え?」

「早くしろ。俺はもう眠いんだ」


 なんて勝手な。

 その宝石を手に取り、月明かりに翳すとキラキラしてとても綺麗だった。相変わらず、惹かれて止まない。“剣になれ”なんてそんな変なことを念じたとて──そう、思った瞬間だった。

 宝石は赤く燃え立ち、火を纏い、風を吹かせ、自分の手から離れたと思ったら、一本の剣になっていた。鞘には宝石が埋め込まれていて、赤く神々しい刃の、闇夜に薄く赤く光る、まるで火のような剣だ。


「なんだ、これ……」

「それは、禁忌だ。昔の人間が魂を入れて作った、宝具だよ」

「はあ!? なんで俺に?」

「持ち主が限定されるんだ。才覚のあるものにしか反応しない」

「……はあ」

「で、最近その宝具が暴走してるらしくてな。良一、その異変調べてきてくれないか?」

「な、なんで俺が?」

「選ばれちまったからな、良一は」

「…………」

「不安そうな顔するな。今日は寝てゆっくり考えてくれ。時間はたっぷりあるしな」


 父さんのその言葉に俺は深く頷いた。こんなこと言って、俺に考えさせているというのに、父さんはもう寝てしまうらしい。ワインを飲み干して、寝室に向かった。

 冒険者なんて、今更──。


 そもそも、憧れだしたのはいつだったか。


 幼少期に読み聞かせてくれた絵本が、冒険する話で好きだったのを覚えている。確か、主人公が十個秘宝を集めて、龍を倒す話。それにワクワクして、毎晩読んで読んでとごねたんだったか。

 目指さなくなった理由は何だったっけ。あんまり覚えてない。だけど漠然とした不安があって、辞めた気がする。


「ああ、くそっ!」


 考えても仕方がない。歯を磨いて今日は寝て明日考えよう。大股で洗面所に向かってふと顔を見ると、右目に渡る長い縦の黒い痣が目に入った。


「……魔物に襲われたからか」


 本当に、嫌な記憶を思い出してしまった。当時この痣が酷く傷んで泣き喚いた。けれど、襲われたときのことを覚えてない。長年消えないその痣は、今でも負の象徴として残っている。


「早く寝よ」


 うだうだ考えても結論は出る気がしなかった。




*


はじめました。

カタカナ表記が苦手なのでうちでは全部漢字表記です。そんな異世界があってもいいじゃないか。そう思います。

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